昏い銀花に染められて…

□the present 19.
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「………」

 すこしぼーっとして、次第に意識がはっきりしてきて、自分を呼び掛ける人物――夜天を認識した時だった。

 彼の顔が、夢に出て来た彼女の顔と重なって見えた。

 もう、これで何度目だ。

 頭がぐちゃぐちゃになりそうだ。
「かぐや?」

 かぐやの瞳が少し翳っているのに気付いた夜天が、訝しげに彼女の顔を覗き込む。

 動揺している。

 もう、何が何だか分からなくなってきた。

 過去も、

 現在も、

 自分自身さえも、

「おかしいよ……」
「え?」

 急にかぐやが小さく呟き、夜天は聞き返した。

 様子がおかしい。

「変だよ、夜天……」

 今度ははっきりと聞こえた。

 夜天は何を言われるのかと身構えた。

「出会った時から、私のことを知った風に接してきて……」

 ずっと戸惑ってた。

 しつこいやつだと鬱陶しかった。

 私は知らないのに…、この人は初対面から名前を当ててきたのだ。

 もう、何が本当で、何が嘘で、何を思い出せていないのか…、

 自分自身でも分からないというのに。

「やっぱり、変だよ…夜天……」
「かぐや……」
「ごめん…」

 そう言って、かぐやは立ち上がり、中庭を出て行った。

 夜天は呆然としてしまった。

 かぐやに久々に拒絶されて、どうしたのかと戸惑ってしまった。

 追いかけることもできなかった。

(どうしたっていうんだ?…かぐや?)




(あぁ〜…やってしまった…)

 中庭から足早と抜けてきたかぐやは、表情には出さずに、カバンを取りにクラスに戻りながら頭の中で後悔していた。

(どうしていつもこうなのだろう…)

 自分の欠点だな、と思う。

 ああ言うつもりは全くなかったのだ。

 夢と現との狭間で混乱に陥り、八つ当たりしてしまった。

 2人の出会いは変な始まりだった。

 自分は知らないのに、あちらはこちらを知っている。

 変な人だと、遠ざけたくて仕方なかったのだが、それでも彼は近づいてきて、そして、とても優しいのだ。
 その優しさに甘えたくなっていたのは事実。

 だと言うのに……。

 ヴェーランス

 セレニティ

 ガーネット

 ヒーラー

 そして、夜天。

 考えることが多すぎる。

 完全にキャパオーバーだった。

(はぁ……)

 頭の中だけでぐるぐると考えているうちに、クラスに着いて、席まで行って鞄を取る。

「かぐやちゃ〜ん!」

 横から、元気な声で呼び掛けられる。

「?何?うさぎ」

 温度に差のある二人。

 それにも気づかず、うさぎは笑顔のまま話し出す。

「今度、みんなでクリスマスパーティをレイちゃん家でするんだけど、それのプレゼントを買いに行かない?」
「え?」
「だいたい毎年してんだけど、みんなでくじ引きとかでプレゼント交換をするの。今年はぜひかぐやちゃんにも来てほしいな」

 突然の誘いだった。

(そんなことしていていいのだろうか…?)

 かぐやにはガーネットを取り戻すため、セレニティを探し出さなければいけない仕事がある。

 安穏と過ごしていたら、あっという間にヴェーランスは力を取り戻すだろう。

「かぐやちゃん?」

 うさぎは考えを巡らせているかぐやの顔を覗き込む。

「あ…、うん。考えとく……」
「そう…」

 かぐやの返事がイマイチだったので、うさぎは残念がった。

 そして、一緒に帰った。




 その夜、かぐやはまた薄着で出掛けた。

(キンモク星……)

 あの夢の場所がそれだったのかどうかは分からない。

 でも、記憶の中の月の王国ではないことだけは確かだった。

 空を見上げるかぐやは、見たことも行ったこともないが、キンモク星がないかと星の輝きをじーっと見ていた。

(キンモク星……)
「本当に、薄着なのですね」
「っ!?」

 完全に油断していた。

 かぐやは背後から降ってきた声の主の方を振り向いた。
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