昏い銀花に染められて…

□the present 19.
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 かぐやは少し唖然としてしまった。

 いつ会えるかも分からない人からずっと傍にいると言われても実感が沸かない。

 だが、何故だかその言葉を信じたくなった。

 そして、彼女がこれまでにもずっと傍にいたような錯覚さえも感じられたのだった。

「ヒーラー……」

 そう呟くが、かぐやの脳裏に夜天の姿が現れた。

(っ!!)

 もう何度目だろう。

 彼女と彼が重なって見えたのは――…。

 かぐやはすっと俯いた。

 どうして夜天が出てくるのか、

 どうして、今、会いたいと思ってしまったのだろうか。

(おかしくなってる)

 両親が儚くなってからガーネットだけで良かったのに、独りで良かったのに。

 どうしても求めたくなる人。

(そんなわけない――)

 かぐやは“会いたい”という気持ちを打ち消すように膝に顔を埋めた。

「かぐやちゃん」
「っ!?」

 枯れた冷たい風の通る音しかしてなかったこの場所でかぐやを呼ぶ声がした。

 誰だとゆっくりと頭をもたげると、うさぎが自分の方に駆けてきていた。

「うさぎ?」

 白い息を吐き出しながら、かぐやの目の前で膝に手を付いてうさぎは笑顔でかぐやを見た。

「どうして?」
「迎えに…来たの」

 かぐやはじっとうさぎを見つめ、ベンチに上げていた足を下ろして、口を開く。

「夕食は?」

 うさぎは今時分、家族と一緒に食事をしているはずだ。

「ママたちに先に食べといてって言って来た」
「………」

 どういうことだろう、とかぐやは考えた。

 この少女は何を考えているのだろうか。

「家に、帰ろう」
「っ……」

 そう言って、うさぎがかぐやに手を差し出した。

 かぐやは目を見開き、しばらく固まってしまった。

 その様子に気づいたうさぎがさらに近づいて来て、ベンチに置いてあるかぐやの手をそっと取って引っ張った。

「もう、お腹ペコペコだよぉ〜、早く帰ろう」
「………うん、」

 不承不承に、小さく頷いた。




†   †   †



(どこ?)

 かぐやは夢を見ていた。

(月とは違う……。ここはどこ?)

 前世の夢は何度か見たことのある少女は、今目の前に広がる光景が月のものとは違うことに戸惑っていた。

 月以外の星……なのだろうか。

 すると、ふわっと風が吹いた。

 少女の艶やかな長い黒髪を靡かせるソレは、一緒に小さな橙色の花びらも運んできていた。

 かぐやはそっと手を持ち上げて、吹いてくるその花びらを掴んだ。

(これ……)

 夢の中なので香りまではしないが、自分が掴んだその花は一番好きな花――金木犀だった。

『キンモク星っていうの』

 以前に、ヒーラーに言われた彼女の故郷の名前。

 かぐやはふと、その名前を思い出した。

 すると、突然肩を叩かれた。

 はっと気がつくと、自分は右側に髪を束ねて、橙色のドレスを着ていた。

 そして、後ろに振り向き肩を叩いた人物を確認した。

(っ!!)


どうして――!?


 振り向くと、目の前にはヒーラーが立っていた。

 とっても優しい笑顔を見せている。

 かぐやはその笑顔を見ていると何故だか自然と安心してしまう。

 彼女が口を開く。

 だが、何を言っているのか聞き取ることができない。


なんて?なんて言っているの?


 何を言っているのか分からないまま、気づくとどこかの室内に場所が移っていて、自分はその部屋のベッドの上に座り込んで窓の外を見上げていた。

『また、星を見上げていたのね。月が恋しい?』

 かぐやは、窓を見上げたまま首を横に振る。

『でも、帰らなくてはいけない場所……なのね』

 かぐやはヒーラーに背中を向けたまま俯く。

 とっても淋しい感情が伝わってくる。

 そう、カグヤは戻らなくてはいけなかった。

 セレニティの傍にいるために――…




「……い、かぐや……」
(!?……誰?)

 また、場面が変わる。

 今度は真っ暗闇になってしまって何も目に映らない。

 だが、声が耳に入ってくる。

(誰?誰が呼んでるの?)

 こんな、何にもない私を呼ぶのは誰?







「かぐやっ!!」
「っ!?」

 かぐやは目を覚ました。

 いつもの中庭で、木にもたれて眠ってしまっていたのだ。
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