沈黙の儚き風

□final story9
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「戦いが…終わったんだな?」
「そうだね……」

 時雨は空を見上げながら目を瞑った。

(はるか…、ほたる…、)

 そうして想いを馳せる。

 願わくば、共に果ててしまいたかった。

 だが、自分には新たに大切な人ができてしまった。

 自分の思いだけでなく、彼の思いも大切にしていきたいと思う。

 すると榊がぐっと肩を抱き寄せた。

「?」

 時雨は榊の方を見ると彼は空を見上げたままでいた。

 時雨の考えていることが分かって慰めてくれているようだ。

 優しさや温かさを感じながら、時雨は苦笑を浮かべた。

 こんなにも愛しく思うようになるなんてと思いながら自分にも苦笑する。

 その時――、



「しーちゃーーーん!!」



「「っ!?」」

 二人はよく聞き知った声が聞こえてきてその声のした方を見て驚いた。

「ほたるっ!!」

 時雨の方に向かってほたるが駆けてきていたのだ。

「しーちゃん!!」

 時雨は地面に膝をついてほたると同じ高さになり、少女が駆け寄ってきたのを受け留めた。

 そこにはしっかりとしたほたるの感触がある。

(生きてる…)

 時雨は気持ちが高揚するのとともに強く抱きしめた。

「しーちゃんの元に帰ってきたよ…」
「バカ…」

 一度死んでしまっておきながら言う言葉じゃない。

 だが、時雨は嬉しかった。

「時雨…」

 時雨はまた別の人物に呼び掛けられて正面を見た。

 そこにははるかが立っていた。

 少し遠ざかったところにはみちるとせつなもいる。

 時雨は正面に立つはるかを見上げて微笑んだ。

「還ってきたんだね」
「あぁ」

 ほたると一旦離れて立ち上がりながら、とても穏やかな声でそう言った。

 はるかは頷いた。

「なにが“自分たちの使命”よ」

 むくれた顔を見せて上目遣いに時雨がはるかに文句を言った。

 はるかは見上げてくる少女に少したじろいでしまう。

 しかしまた笑顔を見せると時雨ははるかの手を取った。

「はるかの手は裏切りの血で汚れてなんかないよ」
「っ!?」

 はるかは驚いた。

 仲間を騙してギャラクシアの配下に下ったウラヌスたちは、敵の意表をついて討とうとしたのだった。

 だが、思惑は外れ、ギャラクシアを倒すことは敵わず、自分たちの方が破れてしまった。

 その時に呟いた言葉。

 仲間を騙し、裏切った末に何もできなかった無力な自分たち。

「なんでかはるかの言葉が伝わってきた…」

 ほたるが死んだ後、死なないで欲しいとずっと想いを馳せていたからなのか。

「はるかの手はいつも温かくて優しいよ」

 そう言って時雨ははるかの手を自分の頬へと持っていく。

「時雨…」

 はるかが時雨を愛しい瞳で見つめる。

「っ!!」

 だが突然、時雨の身体が後方に引っ張られてはるかの手が離れてしまう。

 時雨も驚いたが、榊が時雨の肩を持って自分の方へと引いて、はるかから引き離したのだ。

 引き離すとそのまま肩を包み込んで榊ははるかを睨み見た。

 はるかと時雨、そしてほたるは目を丸くしていた。

「榊…」

 時雨は肩越しに榊の顔を見た。

 とても真剣にはるかを睨んでいる様子が段々と可笑しくなってきて肩を揺らしながら笑う。

 それでも視線を変えない榊。

「はるかくん、あのね、」

 時雨は改めてはるかを見つめた。

「榊が私の今の居場所なの」
「っ!!」

 そしてはっきりと言った。

 だが驚いたのははるかではなく榊だった。

 はるかは肩を竦めて一つ息を吐きだす。

「分かっていたさ」
「え?」
「僕では君の笑顔を取り戻すことはできなかったからね」

 時雨ははるかの言っていることがよく分からなかった。

 はるかへの想いを整理してからは自分の感情に正直に振る舞ってきたからだ。

 首を傾げる時雨にはるかは苦笑する。

「こっちの話さ」
「なによー」

 自己完結するはるかに時雨は唇を尖らした。

「あ…、」

 はるかと話していると、みちるとせつなの更に後方にまだ数人が立っていてこちらを見ていた。
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