沈黙の儚き風
□final story8
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(やればできるじゃない)
時雨は自分にそう思っていた。
感情が膨れ上がり、力を抑えきれなくなった時雨は放出した力によって瞬間移動し、戦士たちが戦っている銀河テレビの建物の入り口の前に降り立った。
(でも、ここまでね…)
以前であれば、異空間と化しているであろうその建物の中にも入り込める力があったのだが、今の時雨の力では目的地ではあってもその建物の前までしか飛ぶことができなかった。
時雨は建物を見上げた。
『どんなことがあっても時雨の元に帰ってみせるさ』
以前に電話ではるかは時雨にそう言った。
「嘘つき…」
もうはるかの輝きが感じられない。
はるかの風が吹いてこない。
どこにもいない…。
「はるかの馬鹿……」
時雨は見上げたまま、また涙を流した。
できるのであれば、今持ちうる力をセーラームーンに届けたい。
自分も共に戦いの場で果ててしまいたい。
「だけど、無理だろうな…」
時雨は建物に向けて手を伸ばした。
「っつ…」
しかし、その手は見えない結界に阻まれて弾かれてしまう。
弾かれた手をもう一方の手で包み、痛みを堪える。
ここまで来たが、ここまでしか進めない。
時雨は眉間に皺を寄せ苦渋の表情を見せる。
『私たちを…信じて……』
信じようにも、信じる人たちがいなくなってしまった。
空虚を抱える時雨はもうどうしたらいいのか分からなくなった。
はるかたちが逝ってしまってから中ではどうなっているのか。
時雨は焦る気持ちを落ち着けると、静かに目を閉じた。
そして、建物の中を探り始めた。
そこにはよくある事務机の並んだ部屋がたくさんあり、それだけ見ていればただの会社の建物にしか見えない。
だが、今は禍々しい気が漏れ出ている。
意識だけを飛ばしてその場所を更に探る。
禍気を辿り、廊下を進み続けるとエレベーターの前に着いた。
(ここだ)
ここがギャラクシアのいる空間に繋がる入り口。
時雨の意識がそこに一歩入ろうとしたのだが。
(っ!!)
エレベーターの扉の中からとても清らかな強大な気が出現した。
そしてその輝きの中からはある幼い少女の姿がイメージとして頭の中に映し出された。
「っ!!」
時雨は目を開いた。
その視界が捉えたのはさきほどから目の前に聳え立つ銀河テレビの建物。
「なんなの…」
あと少しというところだったというのに、時雨がある疑いを持っているあの幼い少女に邪魔されてしまった。
あの幼女は自分のここにいるということに気づいたということだ。
そう考えているとひらひらと一粒の光が時雨の目の前に舞ってきた。
「なに…?」
もう消え入りそうな光。
だが最後の力を振り絞るかのようにその光が大きく輝きを放ち、時雨を飲み込んだ。
その場で大きな光が消えたかと思うと、時雨の身体は力なく地面に倒れこんだ。
何が起こったのか分からなかった時雨だが、空を飛ぶように自分の身体がある一点の光に向かって進んでいっていることを感じた。
その自分の姿はサトゥルヌスの姿へと変わっていた。
身体に重みはないことに気づいた時雨はそこで自分の魂だけが抜け出たことを理解した。
一点の光へと進む、自分の前にはあの幼女が戦士の姿でいたのだ。
自分を誘うように正面を向いたまま飛び続ける幼女が、ふと自分の方を振り返った。
クリクリとした大きな瞳がじっと見つめている。
そしてにこっと笑うと言った。
『わたしたちを、しんじて』
「っ!!」
時雨は目を見開いた。
大切な少女が最期に伝えてきた言葉。
『わたしたちのプリンセスをしんじて』
幼女が時雨を励ますように言う。
そうしていると光の出口へと達した。
「えっ!?サトゥルヌス?」
時雨は眩しい光に強く目を閉じていた。
その耳に声が聞こえて、目を開く。
時雨は宙に浮いていた。
下にはスターライツが驚いて自分を見上げている。
そして目の前にはセレニティの姿で羽をはやして同じように宙に浮いているセーラームーンがいた。