沈黙の儚き風

□final story8
2ページ/6ページ

 いつもそうだった。

 前世でも――。

 セーラー戦士たちに戦いのない時などなかった。

 従者であるサトゥルヌスは戦場に赴き、その戦いの状況を把握していっていた。

 戦況が激しさを極め、もう終わりが見えなくなった時、サトゥルヌスはサターンを呼び出し、鞘である自身から沈黙の鎌・サイレンス・グレイブを現わすと主に継承する。

「ご苦労だった。サトゥルヌス」

 そして、受け取った鎌を振り下ろす――

 サターンのその身とともに戦いは終わっていく。

 何度も。

 何度も。

 星々の巡りの中でサトゥルヌスはサターンを呼び起こし、サイレンス・グレイブを渡し、主の死を見届ける。

 涙を落とさなかったことはなかった。

「泣くな。それが自分たちの使命だ」

 前世で戦士の誰かに言われたこともあった。

 いつも、たった一人で悲しんでいた。

 いつも。

 そして、今回も。

 お互いに役目が変わったとは言え、関係性に変わりはないのだ。

(また、私だけが残った……)

 そんな風に思ってしまう。

 いつも自分だけが助かっていると。

 床に突っ伏したまま涙を落とし、固く目を瞑っている時雨の脳裏に、またあの夢が浮かび上がってくる。

 大切な少女が戦士の姿で力なく倒れる。

 その周りに累々と倒れている他の戦士たち。


――その中には愛しい戦士も。


(やめてっ!!)

 時雨は耳元に手を当てて、心の中で叫んだ。

 そんなことになって欲しくない。

 だけど、現実が夢のように進んできている。

 これ以上、戦士たちの星の輝きが消えて逝ってしまったら、自分はどうなるのだろうか。

 死に対する哀しみと否定、そして悲痛な願いの中で荒い呼吸をしながら時雨は見えない自分に暗闇を抱えた。



・  ・  ・  ・  ・




 時雨に一人になりたいと言われて部屋を出てきた榊は創一のいるリビングへと戻った。

「様子はどうだった?」

 リビングに戻って来た榊に気づいた創一は時雨の様子を訪ねた。

 大丈夫だと聞きたかったが、榊は首を振った。

「仲間が死んだ…」
「っ!!まさかっ!?」

 創一は驚いて立ち上がった。

「いや、ほたるはまだ…」

 榊が部屋を出た時はまだ四戦士だけだった。

 こうしているうちにほたるも逝ってしまっていることはまだ知らない。

 創一は少しだけほっとした。

「でも、一人になりたいと…」
「そうか…」

 本当は仲間の元に飛んで行きたいのだろうと創一は時雨の気持ちを考えていた。

 だが、ほたるやはるかたちにはこの地球(ホシ)を護って欲しいと言い、時雨は自分や榊を護ると約束していた。

 そして前に創一が時雨に戦場に行かないで欲しいと言ったことも足枷となっているのだろう。

 榊も同じようなことを言っていたとその時、時雨から聞いた。

 時雨は賢いから自分の分をわきまえている。

 そんな性格も彼女の足枷となり、そして今は苦しみとなっているのだろう。

 もっと安らかに幸せに人生を歩んで行って欲しいと養父親として思うのだが、彼女の運命がそれを許してくれない。

 代わってあげたいが、それもできない。

 創一は時雨が苦しむ度に同じように苦しく思う。

 それは、同じ場にいる青年も一緒だろう。

 榊は一人掛けのソファに腰を降ろすと、膝に肘を置いて両手を合わせた拳をじっと見つめている。

 火川神社でほたるたちと会って帰って来てから、普段と変わらないような様子を見せていた時雨だったが、榊にはそれが空元気だと分かっていた。

 心はずっとざわついている。

 自分たちを心配させまい為だけでなく、自分にも嘘をつこうと見せていた空元気。

 悲痛な気持ちが手に取るように感じられるのだ。

 そして、仲間の死――。

 本当は近くで支えていたかった。

 だが、時雨もこれから自分がどういう風になっていくのかが分からなくて、敢えて一人になりたいと思ったのかもしれない。

 榊はそんな風に瞬時に思い、部屋を出た。

 しかし、心配である。

 これから戦士たちの死が続くとしたら、彼女は壊れてしまうかもしれない。

(時雨っ!!)

 榊は目を固く瞑った。

 踏ん張って欲しいと願った。

 その時――、


『いやああああああああ!!!!!』


「「っ!!?」」

 突然の叫び声。

 創一は立ち上がり、榊は俯けていた顔を上げた。

 そして二人は顔を見合わせると、同時に時雨の部屋へと駆けて行った。 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ