沈黙の儚き風
□final story8
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時雨が恐れていたことになってしまった。
亜美、レイ、まこと、美奈子の4人の星の輝きが消滅してしまった。
星の輝きの消滅。
つまり、死――
時雨は両手で顔を覆い俯き、涙を流していた。
(水野さん、火野さん、木野さん、愛野さん……)
十番中学に転校したその日にうさぎが声を掛けてきてくれて、4人共と紹介を済ませて、それからずっと仲良くしてくれた。
亜美とは特に勉強面で話が弾み、まことは榊と同じクラスだったから時雨と幼馴染と知ると自然と仲介者になっていた。
レイとは学校が違うので、クラウンの喫茶店で会ったり勉強会で会う程度だったが、うさぎと喧嘩するほど仲が良い関係が見ていて本当に楽しませてもらった。
美奈子はミーハーで、はるかのことや榊のことを狙って、二人のことを知っている時雨によく探りを入れていた。
お互いに関係者だと知った後も仲良くしてくれていたかけがえのない仲間。
(4人が死んだなんてっ……)
時雨は信じられなかった。
信じたくなかった。
「時雨…」
「・・・・」
傍にいた榊がそっと抱きしめる。
時雨は抗うこともなく、素直に榊の胸の中に収まる。
最近はこうやって榊に慰めてもらうことが増えた。
以前ならはるかだった。
はるかと離れたあとは一人で踏ん張ってきていた。
すべてが懐かしく思う。
「榊…、ありがとう…」
榊の優しさを受け取った時雨は一旦、身体を起こすと少しだけ一人になりたいと榊に伝えた。
「え…」
榊は心配になったが今は時雨の繊細な時だから、彼女の意思に従うことにした。
「何かあったらまた呼ぶんだぞ」
「…うん」
弱々しい情けない表情で笑みを作りながら時雨は頷いた。
榊が退出すると時雨はまた膝を抱えて顔を埋めた。
ここからだ。
ここからが戦士たちの正念場だ。
(お願いだから…、)
夢のようにはならないで――
時雨は埋めた膝の中で固く目を瞑り必死に願った。
身近な人の死を知っている時雨には、あの夢が現実となることが心底恐ろしいのだ。
(お母さん…、お父さん…、)
時雨は脳裏に姿を思い浮かべる。
(ユージっ!!)
そして、心の中で強く願う。
(私たちを護ってっ!!)
うずくまり自分の頭を覆う腕に力が入る。
心からの願いなのだ。
「っ!!?」
だが、無情にも時雨の願いは届かなかった。
「あ…、あ…、」
埋めていた顔を上げ、目を大きく見開かせている。
電気も付いていない真っ暗な部屋で一人、時雨は動揺していた。
声が言葉にならない。
喉が枯れていく一方で目からは涙が零れ落ちていく。
「う…、そ…、」
時雨が頼りなく震える手を正面に伸ばしていく。
伸ばし切った掌に小さな紫の光の粒が舞っている。
「帰って…くる…て、言ったじゃない…」
枯らした喉から声を絞り出す。
そして、その光の粒を握りしめる。
だがそれは時雨の指の隙間からすり抜けて消え去って逝った。
『しーちゃん……』
(嘘つきっ!!)
時雨は床に拳を叩きつけた。
『私たちを…信じて……』
「ほたるっ!!」
そしてそのまま床に額をつけて荒い声で大切な少女の名前を叫んだ。
ほたるの星の輝きが消えた――
同じくせつなの星の輝きも――
時雨は床に突っ伏したまま涙を流した。
もう止まることを知らない涙。
天宮家に生まれてた時雨は物心ついた時にはもうすでに創一とほたると知り合っていた。
時雨の両親は創一を尊敬し、彼の研究にずっとついて行っていた。
そして研究所の事故で両親が死んだと共に知った自分の使命。
それまでも可愛い大切な幼馴染と思っていたほたるだが、使命の中で少女の存在が更に大きくなっていった。
ずっと大切に見守ってきた少女。
一度は敵の手に渡り、絶望も感じたが戦士として覚醒めることができ、久しぶりに会った主。
凛とした瞳と声は懐かしく、大切な主だと再認識した。
だが、その命はすぐに消え失せてしまう。
彼女の持つ力の強大さ。
鎌一振りで星一つが滅ぶほどの力。
その身も共に滅びてしまう力。