沈黙の儚き風
□story10
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(どこ?)
時雨は人通りの多い夕方の街を当てもなく走り続けた。
(どこ?)
はるかがどこにいるのか見当もつかず息が荒くなり焦りだけが募る。
(どこっ!!?……えっ?)
右へ左へ視線を巡らしていると時雨は見覚えのある人影を一瞬見たような気がして立ち止まった。
時雨が見たのは薄い紫色のおしゃれなスカートのスーツを着ていて、頭の上で一つの団子に結って腰よりも長く髪を伸ばした女性だった。
(私、知ってる……あの人……)
「時雨ちゃん?」
「え?」
ボーっと人ごみの中に消えるその女性を見つめていると、背後から男性に声を掛けられすぐに振り返った。
「!!、地場…さん……?」
「どうしたんだい?そんなに息を切らして」
それを聞かれて時雨はハッと思い出すと、衛の両腕を掴んで詰め寄り落ち着きのない口調で衛に聞いた。
「月野さん、はるかと知り合いだったよね!?はるかがどこにいるのか知りませんか?」
「え?」
前に会ったときとは打って変わって冷静を欠いたその姿に衛は驚いていた。
「時雨ちゃん、落ち着いて。俺たちもはるかくんとうさこがどこに行ったのか分からないんだ」
「俺…“たち”?」
衛の言葉に引っ掛かった時雨は彼の隣に、桃色の髪で尖がったお団子を作ってツインテールを下ろした少女が立っているのに気づいた。
「………」
そこでやっと正気を取り戻した時雨は、片手で自分の顔を覆った。
(落ち着かなきゃ……落ち着かなきゃ……)
時雨は目を瞑ると頭の中で何度もそう呟いて心を落ち着かせようとした。
「ごめんなさい……落ち着きます……一旦、家に……」
ひと言ひと言続けて言うと、何かに気付いたかのように時雨はハッと顔を上げると衛たちの方に振り返って言った。
「はるかを……」
「え?」
「はるかを探していたこと、誰にも言わないで欲しいの。なかったことに…、してくだ、さい…」
まだどこか落ち着いていないようで、言うことだけ言うと時雨は衛たちの前から去って行った。
「大丈夫かな?」
「まもちゃん、あのお姉さんは誰なの?」
「うさこのクラスメイトで土萌時雨ちゃんだよ」
「ふぅ〜ん」
桃色の髪の少女は時雨が去って行った方を見つめた。
‡ ‡ ‡
(そうだ…、落ち着かなくちゃ……)
家に帰ってもまだ暗示のように時雨は心の内で呟いていた。
でもはるかたちはしきりにタリスマンの持ち主が犠牲になることを言っていた。
もし本当にはるかがタリスマンの持ち主なら……、
(死ぬの?)
犠牲…、それは死ぬということ?
「はるかが死ぬの?」
それは嫌だ。
でも……、
(ユージは?)
はるかのことも気になるが、それよりもユージアルはどうだろう。
(ユージは大丈夫なの?)
心配事ばかりが頭の中を巡って行く。
その時、突然に隣の部屋から苦しみ叫ぶ声が聞こえて来た。
「っ!?何?……ほたる?」
その声を聞いて我に返った時雨は、すぐに自分の部屋を出るとほたるの部屋に向かった。