昏い銀花に染められて…
□the present 18.
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しばらくしてうさぎの家に着いた。
車の音を聞きつけてか、玄関の扉が開いて、青い長い髪の、とても優しい雰囲気を漂わせた女性が出て来た。
きっとうさぎのお母さんなのだろうとかぐやは思った。
衛が車から出て、その女性に挨拶をする。
少しだけうさぎが動揺していた。
その様子を受け取ってか、女性がうさぎに話し掛けた。
「パパはまだ仕事よ。だから、大丈夫」
パパの居ぬ間にさっさと荷物を運んじゃいましょうとその女性は衛に言った。
かぐやはそのやりとりを黙って見つめている。
車から出て来たかぐやを認めた女性は、笑顔を向けながらかぐやに声を掛けてきた。
「あなたが、かぐやちゃんね」
かぐやは急に話し掛けられたことに少し驚いて、少し間を置いてから頷いた。
「私はうさぎの母親の“月野 育子”。あなたのお母さん、望さんの妹です」
「………」
前世でも、Q・セレニティとQ・ボウはあまり似た姉妹とは言えなかったが、この姉妹もあまり似てるとは言えない。
かぐやの母親は、かぐやと同じように漆黒の長い髪をしていて、少し強気に見える目の形をしていた。
お世辞にも優しい雰囲気とは言えず、どちらかというとクールな女性だった。
一方、育子は理想に描いたような主婦で、とても優しい雰囲気が溢れている。
「って言われてもピンと来ないわよね」
黙って育子を見つめるかぐやの様子を受けて、育子は気遣うように言った。
「すみません」
「いいのよ。さぁ、上がって。あなたの部屋を案内するわ」
全てを包み込むとはこういうことを言うのだろうか。
親切を疑いで返してしまっているというのに、この人から笑顔は消えない。
かぐやは自分の態度に自分で呆れながら、育子に促されるままに家へと入って行った。
玄関を入ると、制服を着た男の子が立っていた。
「こんにちは、かぐやさん」
「………こんにちは…」
はつらつとした感じをその表情から受ける少年から声を掛けられてかぐやは一瞬戸惑った。
(誰?)
「オレは“月野 進悟”。うさぎの弟です。よろしく」
かぐやは、進悟に名乗られやっと笑顔を彼に向けた。
「片付け、手伝いますよ」
「いいよ。うさぎと衛さんもいるし、大丈夫」
「遠慮しないでよ」
「………」
正直、手伝ってもらうほど、解く荷物は多くない。
運んでもらえれば、あとは自分で片づけられるぐらいだ。
「じゃぁ、進悟に部屋を案内してもらおうかしら。ママ、お夕飯の準備をするわね」
まだ玄関から一歩も先へ進まないで、問答しているかぐやたちを見て、育子が進悟に言った。
「分かった。さぁ、かぐやさん、こっちだよ」
「ありがとう……」
本当に、
お節介ばかりが周りにいる。
でも、それが良くもなければ、嫌でもなかった。
かぐやは進悟の後を追って、自分の部屋へと向かって行った。
「衛さん、ありがとう。本、重たかったでしょう」
「いやいや、大丈夫だよ。いつでも頼って」
かぐやの部屋は、月野邸の二階からさらに上がった、一番屋根に近い部屋だった。
そこには、すでにデスクがあり、本棚もベッドも置いてあった。
以前に誰かが使っていたような感じがする、そんな部屋だった。
「あとは片づけるだけだから、一人でやれるよ。うさぎも、ありがとう」
「え?手伝うよ」
「ううん。いいの。自分でするから」
「………そう、」
かぐやにぴしゃりと言い放たれてしまい、少し後ろ髪を引かれながら、衛に手を引かれてうさぎはかぐやの部屋を出て行った。
うさぎたちが退出して、かぐやはベッドに座った。
そして、窓の外を見上げる。
時間はまだ夕方の6時を過ぎたところ。
冬の太陽はすでに隠れて、その支配を月と交代しようとしている。
だが、今夜の月は新月。
闇が全てを覆う。
かぐやはその冥い空を見上げたまま、ベッドに横たわると、自然と眠ってしまった。
しばらくして、かぐやはのろのろと目を覚ました。
少し、階下が賑やかになったのを感じたからだ。
きっと、うさぎのお父さんが帰って来たのだろう。
だとしたら、すぐに夕飯となる。
かぐやは目覚めたばかりの体を起こして、そして、部屋を出た。
だが、夕飯に落ち合うためではない。
重たい昏い瞳を見せてかぐやは進んでいく。
二階に降り、さらに玄関に向かって一階へと降りる。
うさぎのお父さんは、着替えをしに部屋へと向かったのだろう、一階の賑やかさは一旦落ち着いていた。
かぐやはあまり周りを見ずに、玄関まで一直線に向かう。
そこへ、かぐやを呼び止める声が降って来た。
「かぐやちゃん、どうしたの?」
「っ!!」
気配を絶っていたつもりだったかぐやは、急に呼びかけられて驚いて振り返った。
かぐやを呼び掛けたのは、育子だった。
「えっと…ちょっと、出掛けたくて……」
「そんな薄着で?」
育子は、肩の出た薄手の黒のワンピースに、暖かそうとは思えないカーディガンを羽織っているだけのかぐやの服装を見て、両眉を垂らして尋ねた。
「慣れてるから……」
いつも、こんな格好だ。
そして、あの公園へ行く。
「でも、すぐにご飯にするんだけど、」
「ごめんなさい。置いといてもらえますか」
「………」