昏い銀花に染められて…

□the present 18.
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「夜天?」
「送るよ」
「……ありがとう…」

 昨日の恩がある。

 本当は突き放したいところだったが、かぐやは俯きながら夜天の気持ちを受け取った。


「月野の家に行くことになったんだって?」
「え?」

 校門を出て、少し歩いたところで、ふいに夜天が話し掛けて来た。

「月野が皆に嬉しそうに話してたからさ」
「あぁ、うん」

 うさぎのその様子が容易に想像できたので、かぐやは心の中で苦笑した。

「今晩荷物をまとめて、明日、学校が終わってから行くことになった」
「そっか……」

 夜天はやはり、家においで、とさっさとかぐやに言えなかった自分が悔しくてしょうがなかった。

 そして、チラっとかぐやの方を見る。

「ねぇ、」
「ん?」

 夜天がかぐやを呼び掛ける。

「その荷物をまとめるの、手伝いに行ってもいい?」
「え?」

 かぐやは夜天の表情を見た。

 また、真っ直ぐに自分を見てきている。

 とても熱い眼差しが、自分を射てくる。

「傍にいたいんだ」

 その言葉を聞いて、かぐやは目を大きく見開いた。

「………じゃぁ、お願いする……」

 かぐやはマフラーで口元まで隠して、不承不承に答えた。

 外は寒い。

 冬が訪れて、もう一ヶ月は経っている。

 年が暮れるのも、もう近い。

 だが、かぐやはとても熱かった。




†   †   †



 そして、翌日。

 学校の一日が終わると、ウキウキした表情のうさぎが、学校の玄関で待っていた。

 一緒に亜美、まこと、美奈子もいる。

「………」

 うさぎや亜美はいい。

 だが、まこととはまだ仲良くしたことがないし、美奈子には少しだけ気まずい気持ちを抱いている。

 未だに夜天への自分の気持ちが分からないからだ。

「まもちゃんにかぐやちゃんの家の住所を教えておいたから、大学の授業が終わったら直接行くって言ってた」
「そう……ありがとう…」

 そうだった。

 まとめた荷物を運んでくれるのは、衛だったのだ。

 衛のことはもう、なんとも思っていない。

 だが、気まずい……気がする。

「でさぁ、どうして美奈子たちもついて来ているのかな?」

 うさぎは分かる。

 うさぎの家に持って行かないものをゴミ捨て場に運ぶ手伝いをしてくれると言っていたからだ。

 だが、どうして美奈子たちも一緒にいるのだろうか。

「なんだよっ!手伝おうと思ってるのに」

 かぐやの言葉に、まことが少し強めに答えて来た。

 そして、表情も少し険しいものだったが、それが瞬間に緩んだ。

「そんな邪険にしないで、頼りなよ」

 かぐやはまことを見上げた。

 とても優しい瞳をしていた。

「困ったときや、大変なときは、一人で頑張らないっ!!」

 かぐやの脇から美奈子が顔を覗かせて、笑顔を向けて来た。

「私たち、かぐやちゃんともっと仲良くなりたいの」

 さらに、知的な笑顔で亜美が言って来た。

 かぐやは片眉を上げて、皆を見ていた。

 お節介にもほどがある。

 この人たちと関わらなければ、自分の望んだように独りでいられたというのに。

 かぐやは何も返さず、無言で帰り道を歩いていた。

 無言は了承だろうと捉えたうさぎたちは、4人で顔を見合わせて、笑顔でかぐやについて行った。




 帰宅したかぐやは、皆にお茶やお菓子を出して、少しだけゆっくりしてもらった。

 出て行く準備の済んでいるかぐやの家は、すでに生活感がなくなっていた。

 空虚が支配するその家は、まるで今のかぐやを映し出しているかのように、うさぎたちには感じられた。

 しばらくしてから、うさぎの家に持って行かない雑貨や、家具などをゴミ捨て場に運び出し始める。

 大きなものを運ぶのに、まことはとても頼りになった。

 かぐや自身も一般の少女より、力はある方だったが、まことは自分以上だった。

 そして、一人暮らしだったその家のものは、元々少なかったので、あっという間に運び終えることができた。

 ちょうど、運び終えたぐらいに、衛がやって来た。

「かぐやちゃん、こんにちは」
「こんにちは」

 車の扉をバタンと閉めて、衛が片手を上げながらかぐやに挨拶をする。

 かぐやは挨拶を返し、そして、よろしくと伝える。

 参考書などの本を詰めた箱はさすがに重すぎて、かぐやとまことは、衛を頼った。

 あとは、着る服や、ちょっとした雑貨類の入ったものだけで、とてもさっぱりした荷物の量だった。

「かぐやちゃん、もうちょっとお洒落を楽しんだら?」

 そんな少なすぎる荷物の量を見て、美奈子がかぐやに言う。

 だが、かぐやはそれを無視した。

 その反応に美奈子は少しだけショックを受けていた。

 荷物を積み終わると、うさぎが助手席に乗り込み、かぐやも後部座席に乗り込んだ。

 亜美とまことと美奈子とは、その場でお別れだ。

「じゃぁ、また明日」
「うさぎちゃんをよろしくね」

 まことと亜美がかぐやに言う。

 亜美のよろしくねという言葉には、これで寝坊での遅刻はなくなるわねという裏の意味があった。

 それを感じ取ったうさぎは、少しだけ顔を青くした。

「うん。ちゃんと連れていくよ」

 かぐやは少し面白そうに、亜美に返した。

 寝坊しないように、うさぎを起こして引っ張ってでも連れて行って遅刻を失くさせる。

「ちょっと、遅刻仲間がいなくなるじゃない!!」

 美奈子が少し涙声で言った。

 そうして、車が動き始める。
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