昏い銀花に染められて…

□the present 12.
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「それでもボクは…彼女を求める……」

 不安そうな、悲しそうなキミのその瞳は、あの時と変わらない。

 銀花が見えない。

 ボクを忘れていても構わない。

 どんなキミでも、ボクは構わない。

 ボクは求める。

 キミを求める。


―――愛しているから……


 そうして、部屋に戻った夜天は、机の上に置いていた小さなモノを手に取った。

 それをギュッと握り、顔に近づけると祈るように硬く目を瞑った。




†   †   †



「おはよ」
「………」

 夜天は学校の玄関の前でかぐやを待っていた。

 かぐやは一瞬動きを止めて、夜天を見上げていた。

 また来たか…と思っていることがよく分かる。

 それでもめげずに夜天はポケットからあるモノを取り出した。

「はい」
「!?」

 夜天はそれを指にぶらさげて、かぐやの目の前に差し出した。

 それは、かぐやがスクール鞄に付けているような小さな巾着袋で、仄かに甘い香りが漂ってきていた。

「これ……」

 何故かこの匂いに敏感なかぐやは、その匂いが何かすぐに気付いたようだ。

「そう。ボクの香りと同じ匂い袋」

 良かったらもらって。と言った。

 かぐやは豆鉄砲を食らった鳩のような表情をしていたが、次第に大きな目を半分閉じて、少し鼻から息を漏らしてから、渋々その匂い袋を受け取った。

 夜天は満面の笑みを称えて彼女を見た。

 そして、続けてかぐやに言った。

「この前は、誘ってくれてありがとう」
「え?」

 かぐやは夜天に改めて言われて、顔を上げた。

「それでさ、今度は僕に誘わせてよ」
「は?」
「今度の休み、一緒に出掛けない?」

 相変わらずの笑顔で夜天はかぐやに言う。

「遠慮します」
「え!?」

 夜天のお誘いに、かぐやは即答で断った。

 あまりのあっさりさに夜天は目をキョトンとさせてかぐやを見た。

「今度の休みは用事があるし、そんな何度もあなたと出掛けるつもりないから」

 そう言って、かぐやはその場から立ち去って行った。

 夜天は頭の後ろを掻きながら、かぐやが去った後、自分も教室の方へと向かって行った。




†   †   †



 休みに入り、暇な夜天は一人ぶらりと街に出た。

「あ〜ぁ〜。かぐやにはフラれるし……暇だなぁ〜」

 本当に目的もなく出て来たので、夜天は暇・暇・暇という心境だった。

 両手を頭の後ろに置いて、変わらず街を歩く。

「ん?」

 ふと目の前を見ると、建物の影に隠れているかぐやの姿を見つけた。

 彼女は、口元に握りしめた手を添えていて、目が動揺して左右に揺れている。

 どうも様子がおかしい。

「かぐや?」

 そう呟いて、頭の後ろに置いていた両手を下すと、夜天は足早に彼女の元へと歩いて行った。





the present 13.
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