昏い銀花に染められて…
□the present 11.
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学校の玄関先では、かぐやと夜天が話し合っていたのだった。
夜天が何かをかぐやに渡している様子が見える。
かぐやは少し嫌そうな、面倒くさそうな表情をしていたが、それでも彼の雰囲気に流されて、渡されたものを渋々受け取っていた。
「―――」
美奈子は黙って見ていた。
そして2人がその場から立ち去るまで、歩み出せないでいた。
ようやく2人がその場からいなくなると、やっと玄関に入ることができた。
「はぁ〜」
美奈子は自分の靴箱の前に立つと、手を置いて、頭も添えてため息をついた。
本当にどうしたものか。
「あなたが彼を好きなんでしょう」
初対面でかぐやから言われた言葉だ。
もし今、夜天について追求したら、かぐやはどう反応するだろうか。
あの時のように面倒くさそうに、素っ気なく同じことを言うだろうか。
それとも――…
“キーンコーンカーンコーン”
「っ!!」
靴箱の前で考えあぐねていると、HRが始まる鐘が鳴った。
美奈子は現実に戻り、目を大きく見開かせて焦った表情を見せた。
「せっかく間に合ったのに、ここで時間を潰してたら意味ないじゃない!!」
そう慌てて言うと、教室に向かって走りだした。
アルテミスは玄関に残り、美奈子が去って行ったのを見送ってから校庭の方へと向かって行った。
「アルテミス」
「っ!?ルナ!?」
玄関から出てトボトボと歩いていたアルテミスを、うさぎとともにやって来ていたルナが呼びかけた。
「何、情けない顔してるのよ」
ルナがからかうようにアルテミスに言う。
アルテミスは、心配そうな表情を変えずにルナを見た。
「あら、何なの?」
本当に情けない表情をしていたので、ルナは驚いて改めて尋ねた。
「美奈がさ…」
「美奈子ちゃんがどうしたの?」
「いつもの美奈らしくないんだ」
そう言って、アルテミスは最近の美奈子の様子をルナに話した。
「恋煩いってやつ?」
ルナがあっさりとアルテミスに聞き返した。
だが、アルテミスには美奈子が夜天のことをどう思っているのかが、実際のところよく分かっていない。
美奈子自身も分かっていないようで、だからこそ、彼女自身も悩んでいるのだろう。
何やら深く考えているアルテミスを見て、ルナは美奈子が心配になった。
HRにやって来た担任とタッチの差で教室に着いた美奈子は、荒くした息を整えながら、自分の席に座った。
その席の隣には、ただ今絶賛気になり中の夜天がいる。
美奈子は彼の姿を視野に入れるなり、緊張してしまった。
今までなら、明るく「おはよう」や、色々プライベートのことを聞くことができたのに、それもできない。
彼の顔を見ることも、少し憚れる。
夜天は、かぐやのことを一途に想っている。
だがしかし、過去の記憶のないだろうかぐやは夜天をどう思っているのだろうか。
「だったら、自分の恋を全うしたら?」
さらっと言ったかぐや。
夜天はかぐやを心底想っている。
そんな夜天と出会って、かぐやの記憶は甦ってきていないのだろうか。
いっそ記憶が甦って、夜天との関係がすんなり納まってくれたくれた方が、こちらの気持ちの整理もつくのだが……。
「そっか……」
美奈子は色々と考えていて、少し気付いたことがあった。
どう見てもかぐやは、夜天に流されてきている。
最近は夜天に話し掛けられても、渋々ではあるが話を聞こうとしている。
会った当初は鬱陶しそうにして、突き放していたというのに……。
その様子が見えているから、2人の関係にやきもきして、さらに気にしてしまうのだ。