昏い銀花に染められて…

□the present 10.
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「ったくもう!」

 かぐやは近くのスーパーまで出て行って、買い物を済ませた。

 ブツブツと文句を言いながら、かぐやは帰っていた。

 今日、自分はお客のはずなのに、構いもせずお買い物させるなんて、碧は何を考えているのか。

 それとも、変わらず今まで通り接してくれているということなのだろうか。


―――かぐやのそんな笑顔を初めて見たよ


 ふと、夜天の言葉が頭を過ぎった。

(はぁ〜)

 買い物袋を提げながら、かぐやはため息をついた。

 どうして、気になるんだろう。

 そして、どうして、突き放しきれないんだろう。

 かぐやは天を仰いだ。

「あれ?かぐや?」
「え?」

 男の人の声に呼びかけられて、かぐやは正面を見た。

「げっ」

 碧の家の前に着いていたかぐやは、目の前にいる人物を認知したすぐに、整った表情を崩した。

「どうして、かぐやが俺ん家の前にいるんだよ?」
「え……と…」

 かぐやの目の前にいたのは安土だった。

「俺に会いに来てくれたのか!?」
「はぁ?」

 急にポジティブな方向に話を向けられ、かぐやは力が抜けそうになった。

「そうか、そうか。やっぱりかぐやは俺が忘れられないか」
「ちょ、ちょっと!!」

 安土はそう喜ぶとかぐやの腕を掴んで家の中に入ろうとした。

 だが――…

“バンっ”

「ぶっ!!」
「っ!!」
「おっかえりぃ〜♪かぐや」

 安土が玄関の扉を開けようと手を伸ばし始めた瞬間、勢いよく勝手に扉が開き、安土はその扉に巻き込まれて横に飛ばされて倒れ込んだ。

 そして、両手を大きく広げた碧がそのままの流れでかぐやを抱きしめた。

 その碧の後ろで、夜天が額に汗を流していた。

「た…ただいま……」

 かぐやは抱きしめられて少し苦しげに答えた。

 再び部屋に入ると碧は玄関先で伸びてしまった安土を捕まえて、部屋に拘束しに行った。

「最初に会った時にも思ったんだけどさぁ〜」
「…うん」

 2階に上がる碧の後ろ姿を見て、夜天がかぐやに話し掛けた。

「すんごい人だよなぁ〜」
「アハハハ」

 かぐやは、笑うしかできなかった。

 何がすごいかまで、説明できないほど碧はすごいのだ。

「でも、とってもいい人よ」
「うん。分かるよ」
「………」

 かぐやが言うと、夜天は彼女を真っ直ぐに見つめて言った。

 かぐやはまた夜天から目を逸らして黙った。

 夜天を前にすると、どうしても調子が狂ってしまう。

「お待たせ。バカが何もしなかった?」

 2階から下りてくると、開口一番、碧がかぐやに聞いた。

「大丈夫だよ」
「そう、良かった。良かった」

 そして、3人揃って、リビングに入って行った。

「あれ?」

 リビングに入ると、かぐやが声を発した。

 食卓に、先ほどなかった花が生けられていたのだ。――銀色の花が。

「碧さん、これ……」
「あ、これ?」

 かぐやが出かけた後、庭先に咲いていたのを見つけて、積み、瓶に入れたそうだ。

 そう言いながら、碧はその花に近づいた。

「碧さんっ!それに触っちゃだめ!!」
「え?」
「かぐや?」

 かぐやが叫んだが、それでも碧は銀花の花弁に少し触れてしまった。

 すると、とたんにその花が怪しく光って食卓の上で人の姿と成った。

「なに!?なんなの?」
「逃げてっ!碧さん!!」

 急に花が人の姿に成ったので、驚き、動揺する碧にそう言ってかぐやが駆け寄ろうとするが、隣にいた夜天が腕を掴んで止める。

「夜天……」
「行ったらかぐやも危ないよっ」
「でもっ!碧さんが!!」

 そう言っている間に、碧の前に立ちはだかるランカウラスが床下から蔦を伸ばして彼女を包み込んだ。

 そして、スターシードが現れる。

「………」

 かぐやが苦い表情を見せる。

 すると、かぐやは急に庭の方を見て叫び始めた。

「ガーネット!!いるのっ!?やめさせて!!止めてよっ!!」
「かぐや!!?」

 急に暴れ始めるかぐやを夜天が押さえる。

(何を言っているんだ?)

 いるはずもないガーネットを呼んで、やめるように叫ぶ彼女の行動の意味が分からない。

 2人がそうしているうちに、碧のスターシードが真のスターシードではなかったと分かったランカウラスが、2人の方に向きを変えた。

「「っ!!」」

 2人は驚きランカウラスと視線を逸らさないようにした。

 すると、自らの爪を長く伸ばし、弦のようにしならせると2人に向けて振るった。

「きゃっ!!」

 夜天が咄嗟にかぐやを庇ったが、壁に打ち付けられてしまい、かぐやは気を失った。

「かぐや!」

 自分はランカウラスの攻撃を直に受けたのだが夜天は構わず、かぐやを心配した。

「こいつ!!」

 そうして、夜天はランカウラスを睨みつけるとチェンジスターを取り出して、変身スペルを唱えた。

『ヒーラー・スターパワー!メイクアップ!』

 変身してすぐに、スターエールを取り出した。

『スター・センシティブ・インフェルノ!』

 ヒーラーの渾身の一撃を受けてランカウラスは散って行った。
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