昏い銀花に染められて…

□the present 10.
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「何を聞いてるのよっ」
「だって、今まで何の連絡もくれなかったのよ」

 本人に聞いたところで教えてくれないだろうと思ったようだ。

「普通よ!変わらないっ!!」
「あ〜はいはい。そういうことにしといてあげる」

 「もう」と一言呟きながら、かぐやはキッチンに戻って行った。

 碧と夜天は目線を合わせて笑っていた。

「ごちそうさまでした」

 そう言って、片づけを終えたかぐやがキッチンから戻って来た。

「本当においしかった。ごちそうさまでした」

 夜天も続けて碧にお礼を言った。

「いえいえ。お粗末様でした」

 碧が二人に返事をした。

「あ、そうだ、かぐや」

 碧の隣に座って落ち着こうとしたとき、碧はかぐやの方を見て呼び掛けた。

「何?」
「悪いんだけど、夕飯の買い物してきてくれない?」
「はぁ?」

 碧とは家族と同じぐらい仲がいいが、さすがのかぐやもちょっと驚きの発言だった。

(今日は、私はお客じゃないの?)
「はい。これメモ」

 かぐやの様子を見てどういう心情なのか分かっているのに、碧は無視してかぐやにメモを渡す。

「はいはい。行って来ます」
「行ってらっしゃい」

 メモを渡されてかぐやは観念して出かけて行った。

「本当に仲が良いんですね」

 かぐやを見送る碧を見て、夜天が言った。

「エヘヘ。付き合いが長いからね」

 とても嬉しそうに碧は夜天に言った。

「ねぇ、夜天くん。冗談抜きで最近のかぐやってどんな感じ?」
「え?」

 急に真剣な表情となって、碧は夜天に尋ねた。

 碧は、かぐやを幼いころから知っている。

 昔はよく屈託なく笑う少女だったという。

 しかし、かぐやは両親を亡くしたと共に、あまり笑わなくなった。

 笑っても、心底ではない。

「あの娘の目に花が咲かなくなった……」
「銀の花!!」
「っ!?」

 碧の言葉に反応して、夜天が立ち上がって碧の方に顔を近づけて言った。

「見たことがあるの?あの娘の銀花を……」

 勢いよく迫られたので、上半身だけ一つ退けた碧は口に手を当てて、夜天に尋ねた。

 かぐやの瞳には花が咲いている。

 彼女の瞳の色が灰色なので、それを銀花だと言っている。

 だが、その銀花は彼女が明るかったころにしか見られず、今の彼女の昏い瞳からはその銀花を見ることはできない。

 夜天はその瞳の花を見たことがあるのだろうか。

 それは、一度でも輝いたということになるのだが――…。

「あ…いや……今のかぐやからはまだ……」

 夜天が碧の言葉を受けてまた椅子に座り込むと、濁しながら碧に返した。

「今の?」

 碧は不思議そうにおうむ返ししたが、あっさりした性格なのか、すぐに頭を切り替えた。

 夜天の返事は、最近は変わらず輝いていないということだ。

 それは、なんて――…

 なんて、淋しいことだろうか。

「あの娘は悪夢を見たみたいなの」
「悪夢?」

 碧はそのまま話し始めた。

 かぐやが言うには、確かに、ここら辺一体の町中が瓦礫の山となったというのだ。

 だが、実際は今の通り、町並みは綺麗で隣にあるかぐやの家も無傷で建っている。

「でも、実際、望(のぞみ)たちは死んだ」

 望とはかぐやの母親の名前だ。

「それからしばらくは家に閉じこもって、全く出てくる気配がなくて……心配していたんだけど、急に出て来たかと思うと、家の中の物を一切持って行かず、十番に移って行ったの」

 碧は夜天を真っ直ぐに見た。

「最後に会った時、肩にガーネットを乗せてひどく昏い瞳をして行ったの」

 今も心配しているのだ。

 碧はかぐやに家に来るようにも言ったのだが、簡単に断られた。

「望はね、かけおちでこっちに来ているから、身内とは疎遠状態なのよ……」

 親戚とも疎遠だから、望たちの葬儀は本当に淋しいものだった。

 かぐやにはガーネットだけが残った。

「私が思うに、変わりすぎたように感じるわ」
「変わりすぎた?」
「えぇ」

 ある日、拾って来た紅色のネコのガーネット。

 望たちが死ぬまでもよく一緒にいたが、ただのペットとの関係のように見えた。

 だが、二人が死んだあとはそのネコに執着しているように思える。

「ガーネットしかいないかのように……」

 確かに、学校でも中庭で一緒にいるのをよく見かけているなと夜天は思った。

 そこから碧は言葉を発さなかった。

 話しは終わったのだろうか。

 一つ息を整えると、夜天は口を開いた。

「かぐやは、少し問題のある行動をしていますね」

 夜天は今のかぐやの学校での姿を碧に話し始めた。

「授業をよくサボっているようです。ですが、成績は優秀です」
「そっか……」

 碧はため息まじりに答えた。

「ねぇ、夜天くん」
「はい?」
「かぐやを包んであげて」
「え?」

 急に碧に言われて夜天は驚いた。

「私、思うの。かぐやは今、あなたに流されていると思うの」
「え?」

 夜天にはそんな風には思ってなかった。

「安土には淡々と主張して拒否してるけど、あなたにはどこかやりにくそうに見えるのよ」

 目を丸くして夜天は碧の言葉に耳を傾ける。

「包んであげて」

 優しい笑みを夜天に向けて碧が言った。

「はい」

 その言葉を受けて夜天ははっきりと答えた。
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