昏い銀花に染められて…

□the present 9.
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 窮屈に感じていたクラウンから出て来たかぐやは、解放気分を味わい、家の方に向かって歩き始めた。

「かぐやっ!!」
「っ!?」

 すると急に、背後から低い声に呼びかけられて、かぐやは咄嗟に振り向いた。

 振り向いたと同時に、腕をがっしりと掴まれた。

「っ!!……安土……」

 まだ3日……もう3日……?

 なんと言えばいいのか。

 ゴキブリ並みの体力にかぐやは呆れそうだった。

(あんなにエナジーを吸い取られていたのに……)

 強く掴まれた腕を解こうと必死にもがくが、男性の力に、かぐやは抗えない。

「お前は俺と行くんだよ!!」
「なんでっ!!?」

 すでに興奮しきっている安土に何を言っても効かないことは分かっているが、かぐやは全力で抵抗する。

「いいか、よく聞け」

 興奮状態とかぐやの腕を握る手の強さは変わらないが、安土は諭すような声音で話し始める。

「俺はこの前、得体のしれない怪物に襲われたんだ」
「…………」
「この街では、以前にも色んな事件が報道されていただろう?」

 かぐやは「だからなんだ?」と思いながら、暑苦しさを感じていた。

「この街は危険なんだよ!!だから、俺と行こう」
「嫌よ!!危険だと思っているのはあなただけでしょう!」

 荒い声を上げて、かぐやは言い放った。

「私は、この街に用事があるの!!それに、あなたのことを大切だとか思ったことは、一度もないから!!」
「なっ!」

 珍しくまともにかぐやの言葉が耳に届いたようで、安土は苦い表情を見せた。

「何を言ってるんだ?かぐや」

 自分たちは付き合っていたじゃないか、と安土は言う。

「ちょっ!!ヤダ!!やめてっ!!」

 自分の気持ちとかぐやの気持ちは同じだと、思い込みたい安土はかぐやの腕を思いっきり引っ張って、何処に行こうというのか、無理矢理連れて行こうとする。

「やめろよ」
「あぁ!?」
「っ!!」

 安土と争っていると、その横から第三者の手が伸びて来て、かぐやの腕を掴む安土の腕を掴んだ。

 かぐやは自分の肩を優しく抱いて、寄り添って来た人物を見た。

「……夜天…?」

 かぐやは動揺していた。

 夜天は驚きを交えたその動揺した瞳を見て、昔を懐かしんだ。


「こんな私にも、
好きな人ができてしまったの……」



 キンモク星で妖魔に襲われそうになった、あの時の動揺した瞳と一緒の瞳。

(やっぱり、お前は生まれ変わりなんだね)

 夜天はかぐやに笑顔を向けた。

「また、お前か!!」

 安土は夜天の姿を見て、大声を上げた。――興奮状態MAXとなったようだ。

「うるさいなぁ〜。その薄汚い手をかぐやから離してくれる?」
「なんだとぉ!!っう……」

 夜天は、自分の言葉に腹たてた安土の怒鳴り声などお構いなく、かぐやの腕を掴むその手を捻じって、無理矢理解いた。

「何するんだよっ!!」
「何って、その薄汚い手を解いただけだよ」

 怒鳴りつけてくる安土に対して、夜天は平然と答える。

「なんだとぉっ!!」

 夜天の態度に安土は腹を立て、勢いで、夜天に殴りかかろうとした。


「あ〜づ〜ち〜ぃ〜!!!!!!!!」


 遠くから、安土を大声で呼ぶ声が聞こえて来た。

 かぐやたちは驚いて、そちらの方に目を向けた。

「こぉらっ!!安土っ!!見つけたぞ!!」

 声しか聞こえなかったのが、次第に勢いよく走ってくる人物が見えた……かと思うと猛突進で、安土に向かってタックルして来た。

「ぐはっ!」
「「っ!!!」」
「な、何っ!?」

 目の前で、首元に腕を巻かれて絞められている安土を見て、かぐやと夜天は驚いていた。

 その後ろから、騒ぎを見てクラウンから出て来たうさぎが、声を上げて驚いていた。

「あんたって子は、この一週間ほど、どこに行ってたのよっ!!」

 学校の先生からも電話が鳴るし、部活の顧問や部長からも何度も訪ねられて困っていたとその人物は言う。

 安土は、学校を辞めたと言っていたが、どうやら、それは安土の幻想だったようだ。
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