昏い銀花に染められて…

□the present 8.
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「いいのよ、月野さん。私、誰とも関わるつもりないし」
「そんな……」

 かぐやは席を立って、自分の分の代金を払って、クラウンを出て行った。

「待って……」

 うさぎは気になって、かぐやを追って来た。

「皆が冷たくしてごめんね……」
「別に」

 かぐやはうさぎを見つめるが、どこか冷たい表情だった。

「あ、あの…でもね、私は友達になりたいな」
「友達に?」

 うさぎのしつこさにも呆れそうになったが、セレニティの手がかりかもしれない彼女。

 ここで突き放さなくてもいいかとかぐやは思った。

「いいでしょう」
「ホント?」

 かぐやの返事にうさぎは明るい笑顔を見せた。

「えぇ。じゃぁまたね。月野さん」
「ねぇ!!」

 別れを告げたかぐやをうさぎはもう一度引き留めた。

「何?」
「うさぎって呼んで」
「………!!」

 うさぎの予想もつかない言葉にかぐやは驚きっぱなしだ。

 一瞬戸惑ったが、頭の中を整理すると、笑って見せた。

「えぇ。じゃぁね、うさぎ」

 そう言ってかぐやは去って行った。

「バイバイ!!」
「ちょっと、待てよ!!夜天!!」
「?」

 かぐやに手を振っていると、そのうさぎの横を夜天が通り過ぎて行った。

「星野?」
「お!じゃぁまた明日な。おだんご」
「お先に失礼しますね。月野さん」
「う、うん……」

 電光石火のように夜天を追いかけて星野と大気もうさぎの横を通り過ぎて行った。

 やっぱりかぐやのことが気になるのだろうか。

 それにしても、まことやレイはどうしてかぐやにあんな態度を取ったのだろうか。

 うさぎはまことたちがいる上を見上げた。




「〜〜〜〜〜〜」

 かぐやは心の中で唸っていた。

「待てよ!!アイツと鉢合わせたら、また厄介だろう!!」
「アンタが付いて来ていることも厄介よ!!」
「ボクは守ってやるって言ってるんじゃないか!!」
「頼んでもないし、了承もしていない!!」

 うさぎと別れたあと、しばらくして自分の方に向かってくる人の気配を感じてかぐやは振り向いた。

 振り向いた先には夜天がいて、そして、彼を追いかける星野と大気の姿があった。

 それからずっと夜天とこの言い合いだ。

(なんで離れて行ってくれないかなぁ〜〜)

 かぐやは困り果てていた。

 そして、このまま家に向かうのも忍ばれ、十番公園の方に向かい、そこのベンチに座った。

「どうしたの?」
「あなたたちが帰るまで、私、ここを動かないから」
「っ!!」

 夜天は顔を真っ赤にした。

「なんでそこまでしてボクらを避けるんだよ」
「関わりたくないから」
「じゃぁ、なんで月野とは友達になったんだよ」
「あなたに関係ないでしょう」
「………」

 ベンチに座るかぐやを夜天は見下ろしながら、苦い表情を見せた。

 そして、前髪を掻き上げると、落ち着きを取り戻した。

「ってか、朋野、アイツと付き合っていたってのは本当なのか?」
「…………本当よ」

 急に横からあまり聞かれたくない話を星野から切り出されてかぐやは一つ間を置いてから答えた。

「中学に入って、あっちから付き合おうって言って来たの」

 安土の母と、かぐやの母が大学時代からの親友で、隣同士だった。

 小さい頃から何かと顔を合わせていた2人。

 かぐやはただの幼馴染と言う認識しかなかったようだが、安土は昔から秘かに想っていたようだ。

 人を好きになるってどういうことか、もしかしたら昔からよく知っている安土なら好きになれるかもしれないと思って、OKの返事をしたということらしい。

「でも、好きになれなかった」

 基本的に安土は自分の思うようにしたいという、社会性の弱い、わがままタイプなので、少し大人なタイプのかぐやとは釣り合わなかったようだ。

「だから、高校に入ってすぐにその旨を話したのだけど……」

 冗談を言うはずのないかぐやが冗談を言ったと思い込んでいるようで、未だに付き合っているという認識のようだ。

「ってか、3年も付き合ってたのか?」

 星野が驚きの声を上げる。

「だって、母親同士の仲がいいから、母親が一緒にいる場面が多くて、あんまし2人きりなることなかったし……」

 というか、彼氏として見ていなかったという感じが伝わってくる。

「そういうこと……」

 かぐやには理解不能だが、夜天が安堵している様子が窺えた。

「うわああああああ!!!」
「「「「!!?」」」」

 その時、急に男性の叫び声が聞こえて来た。

(……まさか…)

 かぐやは叫び声のした方に、一目散に走って行った。

「ちょっと!!かぐや!?」

 夜天はかぐやの急な行動に驚いて、すぐさま追いかけて行った。
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