昏い銀花に染められて…
□the present 8.
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うさぎの方を見たかぐやは彼女の後ろにいた人物に気付くと、また頭を抱えた。
「どうして、そう嫌がるかな?」
「あなた“も”しつこいからよ」
「“も”って、アイツと一緒にするなよ!!」
うさぎが連れて来たのは、夜天だった。
「どうして、人を連れてくるかな?月野さん」
せっかくの学校で唯一落ち着ける憩いの場所だったのに、これで落ち着けなくなる。
ただでさえ、しつこく構ってくる夜天に、この場所がバレてしまっては、いつでもやって来ること間違いないだろう。
「何の用なの?」
「ボディーガード、今日こそはするよ」
「いらない」
夜天が真剣な眼差しをかぐやに向けていた。
だが、かぐやは目線も合わせず、つっけんどんに答える。
「でも、困ってるんでしょう?」
「………」
うさぎが横から加わって来た。
かぐやは俯いて、地面を見つめていた。
確かに、安土は思い込みが激しくてしつこい。
言葉で突き放しても、なかなか離れていかない。
「そういう時は、他人に助けを求めた方がいいよ」
柔らかく、優しい笑顔をうさぎは見せた。
「今日、クラウンって喫茶店に行くんだけど、一緒にお話ししない?」
「…………」
かぐやはうさぎの誘いに対して少し迷った。
「ダメかな?」
少しでも、話をして仲良くなりたいという、うさぎ個人の気持ちもあった。
(この子はもしかしたら、セレニティかもしれない……だったら……)
かぐやは考えた後、大木に寄り掛かっていた体を起こし、立ち上がり、うさぎに笑顔を見せた。
「じゃぁ、お言葉に甘えるわ」
「本当!!」
「っ!!」
かぐやの返事に、うさぎは喜び、夜天は驚いていた。
そして、かぐやは教室に戻ろうと思い、校舎の方へと歩き始めた。
だが、その歩みを背後から肩を掴んできた手によって阻まれる。
「どういう風の吹き回しだよ!?」
「はい?」
夜天に急に掴まれ、結構きつい声音で言われたので、かぐやは眉根を寄せた。
「どうしてあなたに、そんなこと言われなくてはいけないの?」
「どう考えたって、おかしいだろう!?」
今のかぐやが、明るいうさぎやその友だちと、ワイワイ関われそうには思わない。
関わるようには見えない。
「お節介には、何度断っても無駄なのよ」
「………私?」
お節介と言われ、先を行っていたうさぎは振り向いて自分に指を差して呟いた。
夜天は納得していない表情を見せながら、黙っていた。
† † †
「って……」
放課後になり、うさぎたちと喫茶店にやって来たかぐやは、テーブルに肘をつきながら、ため息をついていた。
「ん?どったの?かぐやちゃん?」
能天気な声で話し掛けてくるうさぎにも、ため息が漏れた。
喫茶店に来たはいいが、大テーブルで、人数はうさぎ以外に7人と大人数だった。
「こんなに人数がいるなんて聞いていないわよ……」
呟くようにかぐやは言った。
「だったら、帰れば?」
「!?」
かぐやの呟きを聞いて、まことがきつい口調で言い放った。
かぐやはまことを見た。
そして、力を抜いてフっと笑った。
「大きな態度を取ってたら、誰でも言うことを聞くとでも思ってるの?」
「何だと!?」
かぐやとまことはテーブルを挟んで相対している。
まことは挑発を受けて、テーブルに手を付いて、立ち上がって怒鳴った。
「そんな大声出したところで、怖くもなんともないわよ」
緊迫した2人の雰囲気に周囲が緊張している中で、かぐやはソファに背を預けて紅茶を飲んで余裕をみせた。
「お前たち、仲が悪いんだな……」
少し唖然としていた中で星野が呟いた。
かぐやはその星野の呟きを受けて、彼の方を見た。……彼と言うより、彼の隣の方を見ていた。
「だいたい、どうしてあんたたちがいるのよ!!」
うさぎとそのお仲間だけならまだ納得がいったのだろうが、夜天たちも一緒にテーブルを囲んでいたのだ。
「そりゃ、アイツがいつ近寄って来るかも分からないだろう」
夜天は勝手にボディーガードになってるようだ。
(迷惑極まりない……。………!?)
そんなやり取りをしていたかぐやは視線を感じて、そちらの方をチラっと見た。
見た先には、黒髪の目の鋭い少女がかぐやを見ていた。
「…………」
かぐやは視線を逸らさずその少女を見つめていた。
「あ、かぐやちゃん、彼女はT・A女学院に通ってる【火野レイ】ちゃんだよ」
「よろしく。朋野かぐやさん」
「……よろしく」
全てを見透かそうとする、鋭いレイの視線をかぐやは危ないなと感じた。
「私、帰るわ」
「え?」
「なんだか、あんまり歓迎されていないみたいだし」
「そんなことないよ!!」
急なかぐやの態度に、うさぎは焦って答えた。
だが、まことは心底気に入らないような様子を見せているし、初対面のはずのレイも警戒をしているような視線を向けている。