昏い銀花に染められて…

□the present 8.
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「かぐやは迷惑してるんだよ!!」
「なんで、お前にそんなことが分かるんだよ!!」
「じゃぁ、どうして自分の行動が人の迷惑じゃないって思えるの!?」
「………………」

 もう解放して、とかぐやは頭を抱えながら思っていた。

 夜天の言っている自分の心の内はその通りなのだが、如何せん安土の思い込みの激しさは、小学生並みなので、かぐやは遂に疲れ果ててしまった。

「なぁ!かぐや!!」
「?」

 もう、大声にも驚きもせずかぐやは冷えた瞳で呼びかけて来た安土を見た。

「コイツは何なんだ!!」

 再度、夜天のことを尋ねられ、かぐやは夜天を見た。

 そして、一つ間を置くと、言った。

「関係のない人」
「なっ!!」

 かぐやはきっぱり、はっきり、冷めて言ったので、夜天は驚いた。

 夜天たちと距離を置くうさぎや星野たちも驚いていた。

「関係ないことないだろう!!」

 あまりの言いように腹を立てた夜天は、近くにいたかぐやの肩を掴んで言った。

「同じ学校だろう!?」
「他クラスじゃない」
「コイツこそ、違う学校だろう!!」

 変わらないかぐやの冷めた態度に、夜天はさらに熱くなって言った。

「違う学校とか、俺たちには関係ないし」

 かぐやに夜天が相手されていないと思ったのか、勝ち誇ったように安土は笑いながら言った。

 かぐやは何を言い出すのだろうかと、構えた。

「俺たち付き合ってるから」
「「「「「「えっ!?」」」」」」

 安土の衝撃の告白に、近くで見ていたうさぎたちが驚きの声を上げた。

 そのうさぎたちの声を聞いて、かぐやたちはいつの間にかギャラリーが増えていたことに少し驚いた。

 そして、かぐやはため息をつきながら言った。

「終わった話よ」
「え?」

 かぐやの言葉を聞き逃さなかった夜天が彼女の顔を見た。

「何よ?」
「終わった?」
「えぇ、別れの言葉をきちんと伝えたわよ」

 相変わらず冷めた声音のかぐやは、飽き飽きしたというような表情を見せて、その後、同じ瞳のまま安土を見た。

「ねぇ、安土」
「なんだい?」

 話し掛けられて、安土は気味の悪い笑みを見せた。

「心底迷惑被ってるの。もう、来ないで」
「っ!!」

 かぐやはそう言うと、校舎の方に向けて歩き始めた。

「…………」

 かぐやたちのやり取りを途中から見ていた美奈子は、何が何やら分からず唖然としていた。

 安土という人物に、迷惑だと伝えた後に去って行ったかぐやを夜天が追って行ったのもじっと見つめるしかできなかった。




 苛々した気持ちを抱えながら、かぐやは教室に入った。

 すると、登校中に横目で見ていたのか、かぐやのことを見て、クラスメイトたちがコソコソと何かを囁いている。

(本当……面倒事を持ってくるなぁ〜)

 そう一つ思うと、鞄を机の横に掛けて、かぐやは教室の外に出て行った。

 その時、ふと校門の方を見ると、安土の姿はなかった。




 かぐやはいつもの独りになれる中庭へと向かった。

 いつものように、大木に寄り掛かって座ると、頭上から紅色のモノが降りてきた。

「今、ちょっと見たんだけど、彼、私たちの家の方角に向かって行ったわ」
「じゃぁ、今日は家に帰れないわね」

 木から降りてきたのはガーネットだった。

 彼女の報告を受けて、かぐやは半分冗談で言った。

「ちょっと、やめてよ。寒いのは苦手よ」

 ガーネットが、野宿は嫌だよと言う。

 本気に捉えたガーネットに向けて、かぐやはクスと笑っていた。

「まぁ、最悪、近くのホテルに泊まることになるでしょうね」
「それならまだいいわね」

 手をペロペロと舐めながら、ガーネットは了承した。

 かぐやはまたクスクスと笑った。

“カサカサ”

「っ!!」

 ちょうどHRが終わったぐらいだろうか、いつもは誰もやって来ない穴場だから気に入っているこの中庭に、誰かがやって来る音がした。

「誰?」

 かぐやが視線を鋭くして音のした方を睨み見、ガーネットも耳を立てて様子を見ていた。

「あ、いたいた」
「!!」

 角から現れた姿とその人物の声を聞いて、かぐやは驚いた。

「月野さん」
「やっほ!かぐやちゃん」

 遠慮なく近づいて来るうさぎを見て、膝の上にいたガーネットは草むらに駆けて行った。

「あ、ネコ……」
「あぁ、いいのよ」

 うさぎは脅かしてしまったと思ったようだが、かぐやはガーネットが去って行った草むらに目を向けながら、素っ気なく言った。

「さっきのネコ、かぐやちゃんが飼ってるネコなの?」
「えぇ。ついて来たみたい」
「三日月ハゲ……」
「え?」

 うさぎがかぐやの顔を覗き込んで来た。

「うちにもあんな三日月ハゲのあるネコがいるんだよ」
「へ、へぇ……」

 かぐやはうさぎの言ったことが、一瞬、うまく頭には入って来なかった。

「ルナっていうんだけどね」
「っ!?」

 だが、次に発せられた言葉で、頭の中に電気が走った感覚を味わった。

(今……何て言った?)

 うさぎの口から、知った単語が発せられた。

(ルナ……ルナって……)

 ガーネットが教えてくれた。

 月には自分のように、言葉を話せるネコが他に2匹いたこと。

 そのネコたちにも、自分のように三日月ハゲがあったと言う。

 そして、ルナという名の黒ネコはP・セレニティの傍らにいたネコだという。

(まさか…まさか……月野さん?)

 かぐやは、少し混乱した頭でうさぎの方を見た。

「!!」
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