昏い銀花に染められて…
□the present 7.
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「やぁ!うさこ!今日も勉強、頑張ったか?」
衛は誤魔化そうと、棒読みで明るい声で話し掛けながら、後ろを振り向いた。
後ろを振り向くと、うさぎは衛に最大級に接近していた。
彼女の一歩後ろには、亜美たちが立って見ていた。
「どういうこと、どういうこと、どういうことよっ!!!!」
うさぎは衛の襟を掴んで、涙をだだ流ししながら衛を問いただした。
「へぇ〜、衛さん、あんな娘がタイプだったんだ」
「まこちゃんっ!!」
からかっているのか、本気なのか、まことが衛に疑いの目を向けて言う。
それを、亜美がフォローしようとする。
「浮気っ!!浮気なのねっ!!まもちゃん!!」
「い、いやぁ……違うよ、うさこ!誤解だよ!!」
「何が誤解よ!!一緒に喫茶店から出てきて!!お喋りして別れるなんて!!まるで…まるで……」
「恋人みたいね」
「レイちゃんっ!!」
うさぎの興奮はMAXに達し、衛の弁解にも耳を傾けず、どんどん追究して行くと、最後にレイまでそのうさぎに乗っかって言葉を発す。
またしても、それに亜美がフォローしようとする。
レイの一言にさらに興奮が増したうさぎは、さらに涙を流し始める。
「実際のところ……」
その中で一人冷静な声で、美奈子が尋ね始めた。
「実際のところ、どうなんですか?」
一番のお天気娘が、真面目な顔をしているので、一同、彼女を注目した。
騒いでいたうさぎでさえも、美奈子の方を振り向いて見ていた。
「なんでもないよ。ちょっと前に会ってから、ちょくちょく話したりしていただけだよ」
今日もたまたま見かけたので話し掛けたということを、伝えた。
「で、かぐやちゃんと何を話していたの?まもちゃん」
「ん?彼女と面識があったのか?」
「つい最近ね」
一気に落ち着きを取り戻したうさぎは、真剣な眼差しを衛に向けて尋ねた。
衛は、うさぎたちと同じ十番高校の制服だとは分かっていたが、まさか、すでに面識を持っているということまでは知らなかった。
「夜天くんの役に立てたらと思ってね。彼女のこと、色々聞いてみたんだけど……」
かぐやはなかなか心を開こうとしない。
「ちょっと、深く突っ込み過ぎたら、さらに殻が固くなってしまった」
衛がお手上げ状態だということをうさぎたちに伝える。
うさぎは「そう」と呟き、まことはかぐやを構うことはないと思い、その横で美奈子は一人で深く考え込んでいた。
かぐやは走っていた。
気が済むまで走っていた。
次第に、ゆっくりと走りを押さえて、そして、立ち止まった。
(私……)
かぐやは荒い息を整えながら、考えていた。
(普通に話してた……)
初めて会ったときのドキドキもなく……かぐやは普通に衛と話していたことに、気付いた。
「私……何も思わなかった」
以前にも感じたことのある、自分への驚き。
いつ、感じたのかは分からないが……。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
走って荒くなった息は、落ち着くことなく、さらに荒くなる。
自分がよく分からない。
(私は……私は……)
かぐやは勢いよく目を瞑ると、混乱した自分の心を閉じ込めた。
「かぐや?」
肩に乗ったガーネットがかぐやを気にして声を掛ける。
「何でもない……」
「そう……」
誤魔化したようなかぐやの態度に、ガーネットは横目で見つめていた。
そのガーネットの瞳は、何かを考えているかのようだった。