昏い銀花に染められて…

□the present 7.
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 彼女の周りから溢れ出る負の要素は何なのだろうか。

 夜天たちが追い求めているカグヤであれば、そのカグヤだった時のこともあるのだろか。

 それにしても――…

「どうして、自分だけの殻を作ってしまおうとするんだい?」

 呟くように話していたかぐやは衛の質問に彼の目を真っ直ぐに見て答えた。

「周りに大勢の人がいればいるだけ、別れが悲しくなるから」

 それもとても低い声音で、とても重いものを背負っているかのように言った。

 衛はその雰囲気に呑まれそうになったが、なんとか自我を保って、かぐやに向けて言った。

「でも、再会だってあるだろう」
「再会なんてできない……できたら奇跡……」

 衛の言葉にかぐやは即答した。

 そして、かぐやの言っている「別れ」がどういう別れなのか、衛は理解した。

「誰と、別れたんだい?」

 かぐやは、衛に心底、昏い、冷えた視線を送った。

 衛は少し、それに驚いたが、かぐやから目線は外さない。

「両親」
「………それは……悪いことを聞いたね」
「いいの。ガーネットがいるし」

 かぐやの横にチョコンとガーネットは座っていて、そのガーネットの頭を撫でながらかぐやは答えた。

 見かけて話し掛けた時とはまったく異なった雰囲気となってしまったかぐやを見て、衛は息を呑んだ。

(この娘は……)

 自分の昏い想いに囚われている。

 誰かが、手を差し伸べて、明るいところへ引っ張り上げないと、何をするか分からない。

 彼女の昏さは瞳からにじみ出ている。

 きっと、元は綺麗な明るい灰色の瞳をしていたと思われるが、今はとても昏くて、彼女の真実が見えない。

 何を想い――…

 何を感じ――…

 何を求めているのか――…

 衛は、額から頬へと汗が流れるのを感じた。

 かぐやを引っ張り上げることが自分には出来ないと思ったからだ。

(俺には無理だ……だが、もしかしたら……)

 衛の脳裏に浮かんだのは、万人をも包み込む優しさを持つ少女。

 そして、目の前にいる少女を芯から想う青年。

「ごめんなさい……とても暗い話をしてしまいましたね」

 かぐやは笑顔を作って、もう吹っ切ったと衛に伝える。

 だが、そうは見えない。

 お互い、飲み物を飲み干すと、店を出る準備を始めた。

「ごちそうさまでした」

 店を出ると、衛と相対してかぐやが明るい声で言った。

「いいんだよ」

 そして、衛はまたかぐやを真っ直ぐに見つめた。

「?」

 かぐやは、不思議そうに衛を見つめ返す。

「君は、誰になら心を許せるんだい?」

 衛の質問にかぐやは目を大きく開いて驚いた。

 そして、一つ唾を飲むと、呼吸を整えて衛に答える。

「あなたになら……」
「!?」

 衛はかぐやの意外な返事に驚いた。

 
 だが――…

「本当に?」
「え?」

 かぐやは変化球の返しにまた驚いた。

「本当に、俺になら包み隠さず話せるのか?」
「っ!!」

 真っ直ぐに尋ねてくる衛に、かぐやは気付いたことがあった。

「………ごめんなさい……」

 嘘はついたつもりはなかったのだが、衛に言った自分の言葉を実際に行なえるかというと、自信がなかった。

 今、話している中にも、オブラートに包んでいたり、隠していたりする事もあったから。

「キミにそんな顔をしてもらいたいわけじゃないんだ」

 沈んだ表情になってしまったかぐやを気遣って衛は言う。

「だけど、本当の自分を受け止めてくれる相手が、ヒトには必要だと、俺は思うんだ」

 それが、友だちであっても良いし、恋人であっても良い――…

「でも、それは無理……」

 かぐやは俯いて、呟く。

 辛い想いをこれ以上味わいたくない。

 そんなこと、もう経験したくない。

「今日はありがとうございました」
「あっ!!」

 そう言ってかぐやは逃げ出すように、走り去って行ってしまった。

(ちょっと、突っ込み過ぎたかな?)

 衛は頭を掻きながら、そう思った。

(だけど――…)

 以前にも思ったが、たかだか16年しか生きていない少女が、世界の全てをシャットアウトしてしまっている姿が見ていられなかった。

 自分の周りには、夢に、恋に、明日に、生きている少女たちが大勢いるから……。

 その少女たちと同い年の彼女にも、未来を夢見て生きて欲しいと思ってしまった。

(けど、タイミングってものがあるよな……)

 衛は時期尚早だったなと少し反省した。

 夜天に役立つように、もう少しリサーチしようと思っていたのが、今後、かぐやの方から近づいて来ることはないだろうと感じていた。

「まぁ〜〜もちゃ〜〜ん……」
「っ!?」

 反省していると、急に、背後から寒気を感じた。

 そして、自分の名を呼びかける、低くした少女の声に、衛は「しまった」と思った。

 ほんの一瞬だけ逃げてしまおうかとも思ったが、諦めて後ろを見た。
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