昏い銀花に染められて…
□the present 7.
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「よいしょっと」
放課後、かぐやは、校門の方に向かわず、校舎の裏側へと向かい、そこの塀を乗り越えて学校から出た。
校門前にはずっと安土がいる。
素直にそこから出て行けば、また面倒なことになる。
塀から身軽に飛び降りたかぐやは、スカートの裾をパタパタと叩くと、家とは逆の方向へと歩き始めた。
ちょうどその時、ピョンとかぐやの肩にガーネットが飛び乗った。
「どこ行くの?」
「別に。ちょっと散歩」
「寄り道……」
「五月蝿い」
ガーネットにしょうがないなという声音で呟かれたので、それを遮るように言って、かぐやはスタスタと歩いて行った。
かぐやは十番商店街にやって来ていた。
たくさんの人がいて、売り手も声を上げていて、活気がある。
「こういうところに来るの、久しぶりかも」
「そうね」
肩にガーネットを乗せたまま、かぐやはグルグルと周りを見て、そう呟いた。
「最近はコンビニ食が多いものね」
「五月蝿い」
ガーネットにからかわれて、かぐやは拗ねた声で一括した。
そして、賑やかな中にいると、少し前を思い出す。
母親とよく商店街に来て、色々食材などを買って、そして、おいしいご飯を作ってもらって食べていたこと。
暖かな家族……。
「ちょっと…さみしい感じ……」
「え?」
賑やかな街を見て、かぐやが呟くと、その裏の意味が分からなかったガーネットは疑問符を頭の上に現した。
「ううん。なんでもないよ」
少し俯きがちにかぐやは目を瞑って答えた。
「かぐやちゃん?」
「え?」
少し昏い気持ちに入り込んでいたかぐやは不意に呼びかけられて驚いた。
「衛さんっ!!」
振り向いた先には、衛がいた。
「驚いた。君とこんなところで会うなんて」
衛も、賑やかな商店街にかぐやがいることが少し意外だったようだ。
「寄り道かな?」
「あ、はい…」
かぐやは落ち着きを取り戻すと、淡々と答えた。
「じゃぁ、ちょっとお茶でもする?」
「え?」
「なんだか、疲れている様子だったから」
かぐやの後ろ姿が、少しどんよりしていたらしい。
衛は気になって話し掛けたというわけだ。
「じゃぁ、甘えさせていただきます」
「で、どうかしたのかい?」
一口コーヒーを口に入れると、衛はかぐやを真っ直ぐに見つめて尋ねた。
「………」
かぐやも紅茶を一口飲むと、カップを置いて、一つ間を置いて言った。
「最近、目まぐるしくって……」
「目まぐるしい?」
温かい紅茶の入ったカップを両手で包んで、かぐやは窓の外を見つめた。
「あまり、人と関わるつもり……ないのに……関わりたくないのに……」
なのに、周りからどんどん関わってくる。
人が寄ってくる。
「独りでいたいのに……」
そう呟くかぐやを衛は真っ直ぐに見つめていた。