昏い銀花に染められて…
□the present 6.
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かぐやは彼らから離れたところに座って、グラウンドを見下ろしていた。
部活動だろうか。
昼休みだというのに、サッカーやら、テニスやらがやられていた。
「ちょっと、お昼食べないの?」
放っとくように言ったのに、どうして話し掛けてくるのかと眉間にしわを寄せながらかぐやは思いつつ、声を掛けて来た夜天の方を見た。
「いつも、食べてないわ」
「え!?…どうして?」
「食べると、気持ち悪くなるの」
かぐやのその言葉を聞き、ふっと大気が目線を向けて来た。
「気持ち悪くなるって……他の食事は?」
どうして根ほり葉ほり聞かれなくてはならないのかと思いながら、かぐやは面倒くさそうに、言い放って答えた。
「夜は、食べるようにしてるわ」
かぐやは、そのまま彼らに背中を向けた。
もう、話すことはないという意思表示だった。
かぐやはまた、グラウンドを見下ろしていた。
楽しそうに活動している、生徒たち。
(私も…前は……)
以前は、普通に食べていた。
それに、友だちと関わって楽しんでいたこともある。
(でも……)
かぐやはフェンスに掛けた手をギュっと握った。
「だから――…」
「っ!!」
また、自分の気持ちの中に呑まれてしまっていたようだ。
急に、真横から声を掛けられて驚き、そちらを向いた。
今、この場にいる中で一番長身の大気が、かぐやのすぐ近くに立て膝を付いて、目線を合わせていたのだ。
そして、驚いて振り向いた彼女の顎に優しく手を添えた。
「少し、顔が青白いのですね」
「………」
意外な人物……というのもあったが、まさかそこを指摘されるとは思わず、かぐやの思考は停止してしまった。
「肌の手入れはしていますか?」
大気はそんなかぐやの様子もお構いなしに聞いてくる。
「食事が偏っていたり、寝るのが遅くなったりするだけでも、肌は荒れて行きますよ」
「……っ!!」
しばらく、大気を見つめ返していたかぐやは、キっと睨むと、顎に添えている彼の手を払った。
「!!」
「あなたに関係ないでしょう!!」
かぐやは少し、顔を赤くして、大気に怒鳴った。
「私がどういう生活をしようが、食事をしなくても、そんなの私の勝手でしょう!!」
「“拒食症”ではないのですか?」
「っ!!」
熱くなるかぐやに動じず、大気は冷静な声音で彼女に尋ねた。
かぐやはその単語に反応し、熱くなった気持ちは急速に冷めて行った。
「いつからですか?」
尚も冷静に大気はかぐやに尋ねた。
「………」
かぐやは目を伏せた。
そして、その大気の背後から、夜天がやって来た。
「かぐや?」
かぐやは心配そうに見てくる夜天に視線を向ける。
(どうして……)
どうして、こんなに心揺れるのだろうか。
誰とも関わらない。
関わりたくないと思って、心を固く閉ざしているというのに。
どうして、彼らはわざわざ関わってくるのだろうか。
「びょ……」
「?」
ずっと黙っていたかぐやがボソリと言葉を発し始める。
「私も、気になって、病院に行ったけど……“拒食症”ではないって……」
そう思われるが、拒食症の症状には当てはまらないそうだ。
「ただ、どっちにしても精神面に関係しているだろうって……」
「精神面?」
夜天が聞いてくる。
「私にも、分からない……」
かぐやは夜天から目を逸らして言った。
夜天は、かぐやが何かを隠しているということに気付いた。
そして、顔の傷のこともあるし、しばらく様子を見てみようと思った。