昏い銀花に染められて…

□the present 6.
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(呆れることを超えると、こうなるのね)

 空を見上げたまま、ため息も漏らすことなくかぐやはそう思った。

 そのまま、かぐやは真っ直ぐに、空に浮かぶ雲を見つめていた。

(鬱陶しい……)

 誰とも関わるつもりないのに。

 独りで静かにいたいのに。

(ここに来てから、予想外に周りから関わってくる)

 かぐやがこっちに越して来たのは、ある目的のためだ。


―――復讐……


 ただ、それだけのために、十番町に来ただけだというのに――…。

(私が探しているのは、セレニティだけ……)

 自分を不幸にした女。

「!……」

 意識を考えていたことに集中しすぎたようだ。

 4限目が終わる鐘が鳴り響いた時、その音に予想以上に驚いて、現実に戻った。

 かぐやは眉間に指を当てて、軽くつまみ、鋭くなっていた目元を緩めた。

(こんな調子じゃ、自分の気力が持っていかれそうね……)

 昔のこと、そして今のことを思うと、すぐに熱くなって、その意識に呑みこまれてしまう。

(もっと、リラックスしていかないとね)

 そう思いながら、未だに見たこともないような、落ち着いた笑顔を見せて、かぐやは伸びをした。

“キイィィ”

「!!」

 かぐやが伸びをして、緊張をほぐしていた時、屋上の扉が開いた。

「っ!!」
「あっ!!」

 扉から現れた人物を見て、リラックスしていたかぐやの表情が、また強張った。

(どうしてこうも要所要所で会うのかしら)

 チャイムが鳴ったと同時に、屋上を出るべきだったとかぐやは、後悔していた。

「また、サボり?」
「馴れ馴れしく話し掛けないでっ」

 銀髪を靡かせながら、近づいてくる夜天に鋭い視線を送りながらかぐやは言い放った。

「全然相手にされてないじゃねぇか」
「!!」

 夜天のことしか目に入っていなかったかぐやは、彼の背後から聞こえて来た声に驚き、その声のした方を覗き見た。

「………」

 夜天の後ろには、黒髪を後ろに一つで結っている青年と、茶髪を同じように結っているとても長身の青年がいた。

「ボクの仲間だよ」

 親指を立てて、後ろを指差しながら、夜天はかぐやに言う。

「星野 光だ」

 黒髪の青年が、気さくに声を掛けて来た。

「大気 光です」

 茶髪の青年は、丁寧に会釈をしながら、名乗った。

「いや…自己紹介をしてほしいわけではなくて……」

 かぐやはマイペースな彼らに、ため息が出た。

 そして、そのまま屋上を出ようと、扉の方へ歩きはじめた。

「待てよ」
「!!」

 そう言って、夜天に腕を掴まれた。

「何?」
「一緒にご飯食べようよ」

 エメラルド色の瞳を、キラキラと輝かせながら、夜天はかぐやに言った。

「………」

 かぐやはその夜天の瞳を、煩わしそうに見つめ返して、しばらく黙っていた。

 夜天は表情を変えない。

 掴んだかぐやの腕も離さない。

「………」

 2人の視線は、全く外れない。

 その様子を星野と大気は黙って見ている。――星野はどこか、面白そうに見ている。

「……ふぅ…」

 数分経ってから、かぐやは大きく息を吐いた。

「一緒にいたら、放っといてくれる?」
「あぁ」

 満面の笑みで、夜天は頷いた。

 かぐやはその笑顔に、少し調子が狂ってしまう。

(っ!!)

 夜天が掴んでいた手を離し、先に座ってお弁当を広げていた星野と大気の元に向かう時、風に乗って馴染みある好きな香りが、かぐやの鼻をかすめた。

「金木犀の香り……」
「?」

 かぐやが呟いた言葉を聞いて、夜天は振り返った。

「金木犀が好きなの?」
「え?」

 内心で呟いたつもりだったので、かぐやは目を大きく見開いて驚いた。

「さっきの、聞こえていたよ。で、好きなの?」
「え?………えぇ」

 かぐやは聞かれていたならしょうがないかと思い、不承不承に答えた。

「そっか」

 笑顔のままそう言うと、夜天は2人の元まで行った。
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