昏い銀花に染められて…
□the present 6.
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夜天や、うさぎたちと面識を持ったその翌日。
「はぁ〜」
朝、登校して来たかぐやは、校内に入り、自分の靴箱の中を見て、ため息をついた。
かぐやの靴箱の中にある彼女の上靴が、カッターか何か刃物で切り刻まれていたのだ。
(しょうもないなぁ〜)
かぐやは呆れて、ため息をついていたのだ。
そして、誰の仕業かは察しが付いていた。
(差し詰め、昨日、私を呼び出した彼女たちかな?)
かぐやは昨日どうして、呼び出され、手を出されたり、嫌味なことを言われたりしたのかは分かっていない。
だが、これがイジメであることは理解していた。
(私、何かしたかしら?)
学校の玄関の天井の方を見上げながら、少し考えてみるが、全く思いつかない。
自分の無残な姿にされている上靴に視線を戻すと、平然とした表情でその上靴を取り出し、今履いている革靴をそこに入れた。
そして、靴箱から出した上靴を手に持つと、靴下のまま廊下に出て、近くにあったゴミ箱まで歩いて行った。
“ゴトン”
かぐやはそのまま無造作に、ゴミ箱にボロボロになった上靴を捨てた。
(ふぅ〜)
胸の内でため息をついて、鞄にある自分の財布の中身を見た。
そして、一つ間を置くと、今度は購買部の方へと歩き出そうとした。
「っ!!」
体の向きを変えたかぐやは、目の前が真っ黒になったので驚いた。
次の瞬間には頭上から声が降って来た。
「かぐや?どうしたの?」
「………」
その声を聞いたとたんかぐやは全てを理解した。
目の前の黒は、男子生徒の制服の色で、頭上から降って来た声は夜天の声だと。
「ちょっと!!その上靴どうしたのさ!?」
ゴミ箱に捨てられた、切り刻まれた上靴を見て夜天が驚きの声を上げる。
かぐやは、ため息をついた。
そして、夜天の方を見上げると、鋭い目線を向けて言い放った。
「あなたには関係ないことよ。もう、私のことは放っといてくれない!?」
そう強く言うと、かぐやは靴下のままペタペタと購買部の方に向けて歩いて行ってしまった。
夜天は去って行くかぐやの後ろ姿を見て、心配そうな表情を見せていた。
「また、こっぴどくフラれたな」
星野が、少しからかいを含んだ声音で夜天に言って来た。
「あの湿布……どうしたんでしょうね?」
星野と一緒に大気も夜天に寄って来て、尋ねた。
「あぁ。それはボクも気になった」
そう、かぐやの左頬には湿布が貼られていたのだ。
「何か、あったんだろうか?」
夜天はボソっと呟いていた。
「はあぁ〜」
かぐやは、屋上に来ていた。
今、一般の生徒たちは、教室で授業を受けている時間なのだが……つまりは、また、サボっているのである。
(ってか、あんな状況で授業できないって)
青い空を見上げながら、かぐやは内心で呟いた。
ボロボロにされた上靴を捨て、購買部に赴き、無事購入したかぐやはそのまま教室へと向かった。
「………」
周囲の生徒とは目を合わせず、まっすぐに自分の机まで行くと、あまりの状況に一瞬だけ目を見開いた。
(何これ?)
自分のロッカーに入れていたはずの教科書やノートが乱雑に机に置かれており、それらがカッターか何かで切り刻まれていて、授業に使えないほどだった。
さらに机の中には、犯行声明のような新聞から切り抜いた文字を並べて、一言『いなくなれ』と書かれた紙が入っていた。
(アホらし……)
かぐやは呆れる以前に、やることが低レベル過ぎて、力が抜けてしまいそうになった。
とりあえず、午前の授業に少しは出ようと思っていたのだが、教科書がズタボロでは、集中して受けるに受けられない。
(数学で、ちょっと分からないところがあったんだけどなぁ〜)
と、思いつつ、参考書で確認することにし、そのまま、教室を出て行った。