昏い銀花に染められて…
□the present 3.
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「朋野かぐやさん」
かぐやが校庭から校内へ入った時、正面から3人の女生徒に名前を呼ばれて、その行く手を阻まれた。
「ん?」
ボーっと歩いていたと呼ばれたかぐやは、ふいに現れた3人に目線を向ける。
「今までどこに行ってたの?」
真ん中に立つ、少し長身の生徒が、鋭い目をかぐやに向けて尋ねる。
「校庭にいました」
かぐやは平然と答える。
その態度に3人は苛立った。
「授業をサボるなんて、あなた何様なの?」
「はい?」
また別の女生徒が尋ねてくる。
だが、かぐやはその趣旨が分からず、疑問の声を上げる。
「学校に来ているんだったら、ちゃんと授業を受けなさいよ!!!」
3人目の女生徒は最もなことをかぐやに向けて言った。
それで3人が何を言いたいのかが分かったかぐやは笑った。
「何よっ!?」
その笑いがとても嫌味なものだったので、女生徒の1人が荒げた声を発する。
「だって……」
クスクスと笑ながら、かぐやは言う。
「ただのやっかみでしょう?」
「なっ!!」
かぐやの余裕の笑みは変わらない。
さらに続けて言う。
「別に、私が授業をサボったからって、あなたたちには迷惑掛けてないでしょう?」
強いて言うなら、自分に不利なだけ。
だから、自分の勝手だとかぐやは言う。
そして、かぐやの余裕の言葉と、笑みに少し臆した3人の女生徒たちの横をスッと通って、かぐやは教室の方に向かって行った。
† † †
午後の授業はきちんと出席したかぐやは放課後になると、一人ですぅっと教室を出て、玄関を出て、校門を抜けて、下校して行った。
そして、そのまま家の近くにある十番公園へと赴き、そこのベンチに座った。
「ふぅ〜」
深くため息を吐くと、鈴を鳴らして、隣にひょこっと現れたガーネットの方を見る。
「退屈だわ。本当につまんない日々……」
「辛抱して。この十番でセーラー戦士がよく現れているんだもの」
ガーネットもため息交じりにかぐやに言う。
彼女たちは実際に4人の戦士をその目で見ているのだ。
「えぇ。セレニティを見つけ出さなくちゃ……」
眉間にしわが寄っているが、一点を見つめたかぐやはそう、呟いた。
「次のランカウラスはどこに植える?」
「もう、種は植えて来たわ」
ガーネットの素早い行動に、かぐやは目を見開いて感心する。
そして、またため息をつくと空を見上げた。
「平和すぎる……」
高校生とは思えない言葉を発する。
そのかぐやの目は憂えていた。
彼女は辛いことを抱えている。
どうにも足掻けない現実によって、ここまで昏くなってしまった。――独りになってしまった。
空を見上げていた顔をガーネットの方に移すと、ガーネットを自分の膝に置いて、抱きしめた。
ガーネットはそのかぐやの顔をペロペロと舐めた。
ちょうど同じ時に、十番公園の近くを衛が通り掛かっていた。
そして、ふと公園の中を見ると、親と遊びに来ている子どもや、小学生がボールなどで遊んでいる中、ベンチにふさぎ込んでいる少女を見つけた。
(あ、アレ……)
衛は見たことある娘だと思い、その娘だと当たりをつけて公園内に入って行った。
「キミ……この前の娘だよね?」
「え?」
ベンチの上に三角座りになって、ガーネットを抱きしめ、うつ伏せていたかぐやは不意に声を掛けられて、驚いて顔を上げた。
「あっ……」
その正面に見えた人物は、先日、火川神社の前でぶつかった男性だった。
「あの時の……」
そう、声を上げるかぐやの様子と、その人物の姿形を見て、かぐやの膝の上に乗るガーネットはピンと感じるものがあった。
「間違ってなくて良かった。こんなところで何をしてるんだい?」
衛は、気さくにかぐやに話し掛ける。
「え、あ……、家に帰っても一人だから、ちょっと寄り道」
「家に帰っても……?」
そのかぐやの言葉に、衛は記憶を手繰っていた。
うさぎたちから、星野たちが地球に戻ってきた理由を話された時に聞いた話では、シルバー・キングダムというもう一つの王国が月にはあって、それが滅び、そこの唯一の生き残りプリンセスがいたという。
そして、夜天はそのプリンセスと同じ星の輝きを感じて引き返してきた。
また、先日、火川神社で今、目の前にいる少女と接触したわけだが、彼女の特徴を言っただけで、夜天はすっ飛んで行った。
きっと、自分の言った、“長い黒髪”で“金木犀の香り”がしたというキーワードが当てはまったのだろう。
せっかく会えたのだ。
少し探ってみるか、と衛は思った。
そして、話し掛けようとしたのだが、それよりも先にかぐやの方が話しかけた。
「本当に、似ている……」
「え?」
かぐやの急な言葉に衛は聞き返す。
「昔に好きだった人に、よく似ているんです……」
本当にかぐやの目がボーっとなっているのが衛にも分かった。
「私、特に最近、良いことなしで……それは昔と変わらないことで……」
黙っている衛に対してかぐやは自分の思っていることをつらつらと話す。
「幸せと思った瞬間に、それは崩れ去って行くんです……」
衛はかぐやの言った言葉の重さに、そして、彼女の瞳の昏さに恐怖を感じた。
たかだが、16年ほどしか生きていない少女の言う言葉だろうか……。