昏い銀花に染められて…
□The present 1.
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「ほら、前々から思っていたんだよ」
うさぎは同じ月のプリンセスの生まれ変わりだというのに、カグヤに関して全く触れたことがない。
だから、シルバー・キングダムのことも知らないだろうと薄々感じていた。
夜天はそう言うと、屋上から校内へと入って行った。
星野と大気は「しょうがないな」といった体で、ため息をついた。
うさぎたちは困惑していた。
そのような王国があったということは、自分たちの前世の記憶に全くない。
「星野、詳しく教えて」
「あ、あぁ……」
真剣なうさぎの表情に、星野は少し驚きながら答えた。
シルバー・ミレニアムを支える役割として、シルバー・キングダムという王国があったこと。
その王国はシルバー・ミレニアムよりも遥か前に、集中した様々な天災によって滅び、そこの生き残りのプリンセスがいたこと。
そのプリンセス=カグヤがキンモク星にしばらく滞在していたこと。
そして、シルバー・ミレニアムが滅ぼされた時に、共に、命が散ったこと。
夜天、つまりヒーラーがカグヤを愛しく想っていること。
星野と大気はすべてを話した。
「そんな……」
うさぎは目を見開いて驚いていた。
「本当に、前世の記憶にないのかよ?」
星野も心配そうに、うさぎに問い掛ける。
「……うん…全く……」
うさぎは目を伏せて言った。
「夜天くんの……想い人…」
美奈子がボソっと呟いた。
それに皆が反応し、彼女の方に、目線をやる。
「美奈子ちゃん?」
うさぎが、美奈子の顔を覗く。
美奈子は珍しく真剣な顔をしている。
「私、夜天くんのところに行くわ」
そう言って、美奈子は足早に校内に入って行った。
「どうしたんだろう?美奈子ちゃん」
うさぎの言葉に亜美とまことも顔を見合わせていた。
「や〜てんくん♪」
いつもの能天気な明るさを振りまいて、美奈子が夜天の元にやって来た。
「なんだよ、五月蝿いな」
なんだか苛ついた様子の夜天に、美奈子は一瞬立ち止まりかけたが、笑顔を崩さずに尋ねた。
「その…カグヤさんのこと、もっと聞かせて」
もしかしたら、何かのきっかけとなって、前世の記憶が甦ってくるかもしれない。
美奈子はそう思っていたのだが、夜天は鋭い視線を向けて、話すことはないと言い放った。
きついその言葉に、美奈子はズキっと胸が痛むのを感じた。
席は隣だが、それから、話すことはなかった。
† † †
学校が終わり、うさぎたちは“クラウン”という喫茶店にやって来ていた。
そこでは、T・A女学院に通う、綺麗な黒髪を下した少女【火野レイ】と待ち合わせをしていた。
ついでに、うさぎの付きネコの【ルナ】と美奈子の付きネコの【アルテミス】もその場にいる。
「それは……ちょっと気になるわね…」
うさぎたちから話を聞いたレイが口元に指を当てて、真剣な表情で呟いた。
ギャラクシアとの戦いを終え、一段落着いたと思うと、また次の問題が発生する。
戦士の生活は本当に忙しい。
「ルナはどうなの?」
ルナたちは幻の銀水晶の力を借りて、うさぎたちの前世から、長い時を経て今ここにいる。
「全然記憶にないわ。私の記憶とうさぎちゃんたちの記憶は同じだと思うし……」
ルナは眉間にしわを寄せて、真剣に考えている。――アルテミスも一緒だった。
「でも、夜天くんたちは、その時代に居て、さらにはそのカグヤっていうもう一人の月のプリンセスと会っているのでしょう?」
レイはうさぎに聞いた。
「う〜ん。星野たちはそう言っていたよ」
うさぎたちは、自分たちの記憶と星野たちの思い出との相違点にモヤモヤした感じを抱いている。
「だから……詳しく教えてって言ったのに…」
今まで黙って伏せていた美奈子が、小さな声で呟いたのを聞き、みんなが彼女の方を向く。
「なのに、構うなって言うのよ!!」
いつもの美奈子……なのだろうか、とりあえず、大きな声でテーブルをバシっと叩きながら立ち上がって言った。
「み、美奈子ちゃん?」
うさぎは驚いて、恐る恐る名前を呼んでみた。
「なんで、不機嫌になってる夜天くんに、わざわざ聞いたんだよ?」
まことが美奈子に尋ねた。
「そうよ!おしゃべりな星野とか……」
まことの言葉を受けて、うさぎが人差し指を立てながら言う。
「最近、雰囲気が丸くなってきた大気さんとかに聞いた方が良かったんじゃないの?」
さらに、うさぎの言葉に続けて、亜美が締めて聞いた。
「亜美ちゃん、さすがね」
小さい声でレイが突っ込む。
亜美は顔を赤らめながら、「深い意味はない」と誤魔化した。
美奈子は落ち着くと、また椅子に座り、顔を少し俯かせて黙った。