昏い銀花に染められて…
□The present 1.
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その様子を見て、みんなはピンっと悟った。
(美奈子ちゃんっ)
(まさかっ!)
(夜天くんのこと……)
(ってことは、やきもち妬いてる?)
うさぎ、亜美、まこと、レイがコソコソっと話し合う。
美奈子はそんなことにも気づかないで、らしくもなく沈んでいた。
「とりあえず!!」
恋愛話になると、異常に盛り上がるみんなを諌めるように、ルナが大きな声を出して呼びかける。
「衛さんと、はるかさんたちとも話し合った方がいいわ」
「そうね、明日は土曜日だし、うちに集まりましょう」
ルナに同意したレイが、火川神社に来るように、みんなに促した。
「どうかした?美奈?」
レイたちと別れたあと、家の方に向かって歩く美奈子に、アルテミスが彼女の顔を窺いながら、尋ねた。
美奈子は首を横に振ってから、そっと声を出した。
「なんでもないの……ただ、ちょっとショックだったのかも……」
「ショック?」
空を見上げながら、言葉を考えながら話し始める。
「前の戦いで、火球王妃一筋!って感じで、カグヤって人を探している風なんてなかったでしょう」
アルテミスの方を見下ろして、続けて言う。
「それに、私たち自身に記憶がないなんて……手がかりがないから、夜天くんたちを手助けすることもできない……」
カグヤという人物は一体どんな人だったのだろうか。
夜天、もといヒーラーを虜にさせるほどの、素敵な人物なのだろうか。
「もどかしすぎて、イライラするわね……」
「そうだな」
長く、美奈子のパートナーを務めているアルテミスは、その一言だけで話を終えた。――美奈子なら、すぐに前進して、何か対策を考えるはずだと信じているからだ。
「おかしいよね……ルナ?」
一方、美奈子たちと同じく、家路に着くうさぎとルナも、話し込んでいた。
「そうね……」
うさぎたちだけではなく、自分やアルテミスにまで記憶がないことが気になっている。
「思い出せるかなぁ〜」
うさぎの本心のようだ。
「P・カグヤってどんな人なんだろうね」
うさぎが呑気な声でそんなことを呟いている足元で、ルナは考えている鋭い目線を見せていた。
「あれ?」
「?」
すると、急に声を上げてうさぎが立ち止まった。
なんだと思い、うさぎを見上げた後、正面を見ると、十番公園に走って行く夜天の姿と彼を追いかける星野と大気の姿があった。
「どうしたんだろう?」
十番公園の方に、うさぎは足を速めた。
『きゃああああ!』
ちょうどその瞬間に、女性の高い叫び声が聞こえた。
「何?」
「とりあえず、行きましょう」
そう言って、うさぎとルナは走って行った。
星野の部活が終わるのを待って、夜天と大気たち3人は帰宅していた。
「探す人の数は多い方がいいのでは?」
学校を出てから、大気たちの話す内容はカグヤを探すことばかり。
それと、うさぎたちへの邪見な態度があまり良くないとのこと。
「だって、アイツら、記憶がないって言ってたじゃないか」
うさぎたちに話してから変わらないふてくされた態度。
「そんなことだろうと、思っていたんだよ」
「そんな言い方はないだろうっ!」
夜天のあまりの言いように、星野が加わる。
「月野が月のプリンセスの生まれ変わりで、衛って彼氏が地球の王子の生まれ変わりなんだろう!?」
声を荒げて、夜天が確認するように2人に聞く。
2人は頷いた。
「星野たちは知らないと思うけれど、カグヤはエンディミオンって、地球の王子のことを想っていたんだよ」
「「!!」」
2人は知らなかったようだ。
夜天しか知らなかった内容だけに、とても驚いていた。
「だから、気に入らないんだよ」
確かにセーラー戦士の仲間として、打ち解けた仲ではある。
だが、それとこれとは話が別なようだ。
前世で想い合っていた二人が現世では結ばれている。
その事実が、夜天にとっては良いことだが、カグヤのことを考えると辛い。
―――もう、昏いカグヤは見たくない。
「っ!?」
カグヤのことを思い出し、淋しい表情を見せていた夜天は、目の端を通ったある人物が目に留まった。
「夜天?」
夜天の表情が明らかに変わったので、星野が呼びかける。
しかし、夜天はその大きなエメラルドの瞳を揺らしており、星野の言葉は耳に入っていない。
「うわっ!!……おいっ!夜天っ!?」
じっとどこかを見ているかと思うと、しばらくして、急に走り出した。
星野が驚いて手を差し出して、また呼びかける。
だが、それで止まるわけもなく……大気が一つため息をつくと、夜天の後を追って行った。
星野もまた呆れながら2人の後を追った。