昏い銀花に染められて…

□the past 6.
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 また、Q・セレニティとP・セレニティも一緒に2人の踊りを見ていた。

「あなたは知っているのですか?」

 不意にQ・セレニティがP・セレニティに話し掛けた。

 P・セレニティはカグヤとエンディミオンのペアから目をそらさずに、Q・セレニティに答える。

「知っていました」
「どうして、エンディミオンに促したのですか?」

 Q・セレニティは責めているわけではなく、ちょっとした好奇心からP・セレニティに聞いている。

「キンモク星から帰って来たカグヤは変わりました」

 P・セレニティは言った。

「以前より明るくなって……それに、エンディミオンではなく、違う方のことを考えているように思うのです」

 P・セレニティは、カグヤが金木犀の香りのするお茶を飲む時の、表情を思い出していた。

 彼女はとても嬉しそうに、楽しそうにしている。

 キンモク星でのことを思い出しているのか……キンモク星の“誰か”を思い出しているのか……

「別に、意地悪してエンディミオンを促したわけではないですよ」

 やっと、ダンスをする2人から視線を外し、母なるQ・セレニティの方を見て言った。

 Q・セレニティはクスっと笑って、P・セレニティを見下ろしていた。

「あなたがそんなことをするとは思っていませんよ」

 そして、Q・セレニティはカグヤたちの方に視線を向けた。

(そうですか。明るくなりましたか)

 また、キンモク星のプリンセス、火球とお話をしなくては。とQ・セレニティは思っていた。




「ありがとう」

 1曲、踊り終えると、カグヤとエンディミオンはバルコニーに出た。

 カグヤはやっぱり窮屈さは感じているようで、夜風に当たりたくなった。

「そういえば……四天王は来ていないのね」

 少し落ち着いたのか、周囲を見渡したカグヤはエンディミオンに尋ねた。

「お忍びか……」
「すぐにバレると思うがな」
「そこまでして来なくても……って、来たいわよね」

 カグヤは突っ込みそうになったが、小さく呟いて誤魔化した。

「それより、キンモク星はどうだったんだ?」
「え?」
「俺も、地球と月のことしか知らないから、他の星はどんなのだったのだろうと思っていたんだ」

 キンモク星は遠い星。

 カグヤのような機会がない限り、容易には行けない星。

「とっても良かったわよ」

 そうしてカグヤは語り出した。

 キンモク星の人々、みんながとても暖かくて、優しかったことや、火球やその守護戦士のこと、そして、金木犀の花のこと。

「本当に、楽しかった」


―――幸せだった……



幸せだと思った瞬間に、
それは崩れ去って行く……



「!!」

 キンモク星での生活のことを思い出していると、急にエンディミオンの顔が近づいてきた。

「な、何っ!?」

 本当に不意に近づいてきたので、カグヤは顔を赤らめて、慌てていた。

「花が咲いている」
「っ!!?」

 エンディミオンがカグヤの顔を覗き込みながら言った。

その言葉、あの人から言われてから、何度目だっただろう――…

 カグヤは少し、淋しい気持ちが甦って来たが、それを胸の内にしまって、クスクスと笑った。

「セレニティに聞いたの?」
「え?……あ、いや。聞いてないよ」
「そうなの」

 てっきり、おしゃべりのセレニティが言ったのかと思っていたが、本当に違うようだ。

「綺麗だな」

 エンディミオンの、率直な言葉。

 でも、これは本当に瞬間に思った彼の言葉。

「……うん」

 ありがとうの気持ちを込めて、カグヤは返した。

 やっぱりまだ引きずっているのかな……。

 だが、最近よく頭に浮かぶのはあの人のことばかり……。

(大丈夫。私は、大丈夫……)
「っ!!!!」

 その時、急に外が騒がしくなり、次の瞬間にはお城中に警報が鳴り響いた。
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