昏い銀花に染められて…
□the past 6.
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カグヤは椅子に座ると、金木犀を浮かべたお茶をすすった。
その隣で、セレニティはカグヤをじっと見ていた。
「?……何?」
その視線に気づき、カグヤは尋ねた。
「カグヤも、守護戦士を持てばいいのに……」
カグヤは今さら何を言うのかと思い、目を丸くした。
「だって、カグヤもプリンセスよ!私にはヴィーナスたちがいつも傍で控えていて、いつ何時に危険に見舞われても大丈夫だわ。……でもあなたは……」
「いいのよ」
「でも!!」
セレニティの優しさはよく伝わる。
だが、カグヤはセレニティの眼前に掌を開いて、言葉を止める。
「あなたと争うつもりはないのよ……」
カグヤは憂えた、優しい目をセレニティに向ける。
「私に守護戦士はいらない」
はっきりと言われてしまった。
セレニティは少し拗ねたように口を尖がらせていたが、息を一つ付くと、お茶を飲み始めた。
その様子をカグヤはクスっと笑って見ていた。
† † †
「はぁ〜〜」
カグヤは壁に寄りかかってため息をついていた。
いつも右側に一つに束ねている髪を今日はサラっと下ろしており、薄い紫色のイブニングドレスを着ていて、また、肩を冷やさないために同色の肩掛けをしている。
胸元や、腰にはカグヤの好きな花が飾られている。
今夜はパーティ。――だから、カグヤは整ったドレスを着ている。
シルバー・ミレニアム中の人々が、ここ、ムーン・キャッスルに集まって来ている。
いつもは人の少ない大広間。
だが、今日は大勢の人々が行き交っている。
広いはずのお城がとても手狭に感じ、カグヤはいつも以上の窮屈さに息が詰まっていた。
大広間に集まる人々はたいていお相手がいて、流れる曲に合わせて、軽やかに楽しく踊っている。
(パーティは苦手……)
片想いのエンディミオンはいつもセレニティと踊っている。
誘ってくる男性は、滅びた王国の生き残りだからか、いつも、からかっているような雰囲気を漂わせている。
(しょうもない奴らばかり……)
カグヤはクルッと後ろに向きを変えると、窓の外を見上げた。
最近、考え事をする度、窓の外を見上げてしまう。――特に夜空を……
(フっ……探したところで、会えるわけでもないのにね……)
夜空を見上げれば、様々は星が瞬いている。
その中の一つの星を探そうとするのだ。
「私と、踊っていただけませんか?」
「え?」
夜空を見上げてもの思いに耽っていると、耳によく響く、低い声がカグヤに掛けられた。
また、振り向くと、目の前にはP・エンディミオンがいた。
「え?…エンディミオン?」
いつもと変わらない吸い込まれそうな瞳をまっすぐに見つめ、カグヤは驚き、一つ高い声を出してしまった。
「どうして?セレニティは?」
「人酔いしたので少し休むそうだ。その間、一人でいるあなたのお相手をするように言われた」
カグヤは呆れて半眼になった。
(人酔いなのは嘘ね……何を考えているのだか……)
そう思っていると、エンディミオンが手を差し出して言った。
「踊っていただけますか?」
「!!」
自分よりも少し年上のエンディミオン。
背も高くて、本当に魅力的だ。
カグヤは大人っぽい笑顔を見せて、エンディミオンの手に自分の手を添える。
「ダンスは苦手なの。うまくリードしてくださる?」
「お任せを」
そうして、2人は今流れている曲に合わせて、踊り始めた。
周囲の参加者たちは、その優雅な踊りにホゥっと息をついて、うっとりして見ていた。