昏い銀花に染められて…

□the past 6.
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 それから、カグヤは自室に戻った。

 セレニティは何も言わず彼女について行った。

「アンタも相変わらずねぇ〜」
「え!?」

 カグヤの部屋にあるソファにチョコンと座るセレニティに向けて話し掛けた。

「甘えん坊さん」
「///」

 クスっと大人ないたずらっぽい笑いを見せた。

 その言葉にセレニティは肩に力が入った。

 セレニティの様子を横目に見ながら、カグヤは呼び鈴を鳴らして、侍女を呼び、お茶を持ってくるように頼んだ。

 そして、ベッドの上に寝転び、また、セレニティを見た。

「あんた、小さい頃も不安になったり、怖い夢を見たりしたら、私のところに来ていたでしょう」

 照れるセレニティを見て、フッと力を抜いて、カグヤは笑った。

(本当、変わらない)

 窓の外を見上げて、カグヤは安心した表情を見せていた。

「あっ!!」
「っ!?何?」

 青い空に浮かぶ白い雲を見つめていたカグヤの傍に、セレニティは近寄って来て耳元で声を上げた。

「銀の花だ…」
「!!」

 セレニティはカグヤの顔にさらに接近して言った。

 カグヤは目を大きく見開いて驚いていた。


―――あなたの目に花が咲いてる


 あの時のことを思い出す。

 彼女の声を思い出す。


―――グレーだから……銀……銀の花だわっ!!


(ヒーラー……)

 カグヤは数日前までいた、あの星とその人々のことを思い出していた。

「本当に……あなたは」

 肩の力を抜いて、笑いながらカグヤは呟いた。

 その横で、セレニティは、小さい頃からずっと一緒にいるのに、カグヤの目の中に咲く、銀の花にどうして気付かなかったのだろうかと、一人考え込んでいた。

 その時、扉をノックした後、侍女がお茶を持ってきた。

「ありがとう。そこのテーブルに置いておいて」

 こういう時のカグヤは本当に落ち着いていて、プリンセスっぽい。

 だが、彼女自身、自分はプリンセスではないと言い張るのだ。

 セレニティはそれを残念に思う。

(私と張り合ってくれてもいいのに……)

 カグヤとセレニティはベッドから降りて、お茶が置かれたテーブルに向かった。

「あれ?」

 セレニティはテーブルに置かれたお茶を見て不思議に思った。

「何?」

 カグヤはセレニティの方を見た。

「カグヤ、ミルクティーじゃないの?」

 そう、カグヤはいつもミルクティーを好んで飲んでいる。

 だが、今、目の前にあるのはミルクの入っていない、ストレートティーだった。

「いいの。コレ、入れるから」

 そう言いながら、巾着を取り出した。

「それ……」

 カグヤが取り出した巾着は、金木犀の花が詰められたものだった。

 その巾着の口を開けると、その花をお茶に浮かべた。

「わっ、いい香り……」

 セレニティは湯気とともに漂う、金木犀の香りに酔った。

「でしょう。これ、お気に入りなの」

 そう言って、カグヤは目を瞑り、このお茶を淹れてくれる人物を思い浮かべていた。

“トントントン”

 椅子に座って、ゆっくりお茶を飲もうと思ったカグヤは扉が叩かれる音に反応し、入るよう声を掛ける。

「失礼します。P・カグヤ」

 扉の向こうから姿を見せたのは、ヴィーナスたちだった。

「あっ!!」

 その後から入って来たマーズは、カグヤ以外の人物が部屋にいることに驚いた。

「P・セレニティ!!あなたは、今はお勉強の時間のはずでは?」

 マーズに荒い声で言われたので、セレニティはカグヤの影に隠れた。

 カグヤは部屋にやって来た、四戦士とセレニティの両方に目をやって、クスっと笑った。

「マーズ、今日は勘弁してあげて」
「え?」

 カグヤに言われて、マーズは力を込めた肩を下した。

「地球とのこともあるし、近々パーティも催される。セレニティも落ち着かないのよ」

 心が落ち着かない時に勉強しても身が入らないと言いたいようだ。

 四戦士は、そのカグヤの言葉を聞いて、顔を見合わせてから、頷いた。

 カグヤは四戦士に笑顔を見せた。

「で、私には何の用で来たのかしら?」
「あ、あのですね。そのパーティに着る時の、ドレスの採寸を……」

 一人背の高い、ジュピターが一歩前に進み出てカグヤに言った。

「あぁ…アレね……」

 カグヤは半眼になって、目を泳がせた。

「それは、セレニティは?」
「あ、はい。P・セレニティも呼ばれています」

 マーキュリーが慌てて答える。

 カグヤはテーブルに置いてある、持って来てもらったばかりのお茶を見つめて、ふぅっと息を吐くと、四戦士に目線を戻した。

「それって、今すぐじゃなきゃダメ?」
「え?あ……いいえ。大丈夫ですけど」

 急なカグヤからの振りにマーキュリーは少し考えてから答えた。

「じゃぁ、お茶を飲んでから行きたいのだけど」
「大丈夫です」

 部屋の奥を覗いて、淹れたてと理解したマーキュリーが快く了承した。

「では、セレニティもあとから一緒に連れて行くけど……」

 セレニティはやっとカグヤの背中から顔を覗かせた。

「やっぱり……あなたたちも付いていた方がいいわよね」
「気にしないでください。また一時間後に呼びに来ますので」

 カグヤが気を使っているのが分かり、ヴィーナスが答える。

「そう。では、この部屋で待っているわね」

 四戦士は、セレニティをカグヤに任せて、一旦、部屋を退出した。

 再び部屋に2人きりとなった。
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