昏い銀花に染められて…

□the past 5.
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「失礼します」

 セレニティを先頭に、全員がQ・セレニティの部屋へと入る。

「お待たせしました、お母様。どんなお話なのでしょうか?」

 Q・セレニティは深く頷いて口を開いた。

「今、地球との関係が不安定なのは……カグヤは知っていますか?」

 話し始めた瞬間から自分に質問がやって来たので、カグヤはビクっと驚いた反応を見せたが、すぐに頷き、知っていることの意思表示をする。

「では、それを念頭に置いていてください――…」

 Q・セレニティの話が本題に入る。

「あなたたちは“憎しみの魔女”の存在を知っていますか?」

 さらに質問がされた。

 それにはセレニティもカグヤも首を横に振った。

「昔の文献で読んだことがあります」

 首を横にふる2人の後ろからヴィーナスが発言する。

「確か、この月で生きていて、黒魔術を使い、人の憎しみなどの負の要素を引き出す、危険なヤツだとか……」
「その通りです。実際、昔に黒魔術によって、人々の負の心が表に出て、月全体がひどい惨劇の場となったことがあります」

 Q・セレニティは過去の惨状を思い出したのか、苦い表情を皆に向けていた。

「ですから、この私とあなたのお母様=【Q・ボウ】とで力を合わせ、封印をしました」

 カグヤは母親の名前を出されて、少し目を揺らした。

 そして、急にどうしてこのような話をしようと思ったのか、Q・セレニティの心理を探ろうとした。

 そんなカグヤの様子も知らず、Q・セレニティは話を進める。

「カグヤ……シルバー・キングダムの者たちは、私たちシルバー・ミレニアムの一族を支えるだけが使命ではないのです」
「え?」

 急なQ・セレニティの告白にカグヤは驚く。

「実は、憎しみの魔女と呼ばれる【ヴェーランス】を封印した当時はまだ、シルバー・キングダムという王国はなかったのです」

 その言葉には、呼び出された一同が息を呑んで驚いた。

「クイーン……それはどういうことですか?」

 もちろん、一番驚き、動揺しているのはカグヤだった。

「ヴェーランスはこのシルバー・ミレニアムの裏側を根城にしていたのです」
「!!」

 シルバー・ミレニアムの裏側とは、今は亡きシルバー・キングダムのあった場所だ。

 カグヤはシルバー・ミレニアムが月の隅々まで管理することが困難なため、Q・セレニティの姉にあたる自分の母親、Q・ボウがシルバー・ミレニアムを補佐する形で月の裏側に城を構えているのだと思っていた。

 それも、遥か彼方の昔から――…。

「その解釈は半分合っていて、半分間違っています」

 シルバー・ミレニアムを補佐するため、シルバー・キングダムを構えていたことは事実なのだ。

「ですが、その裏に隠されたあなた方一族の使命は……『ヴェーランスを見張ること』だったのです」

 それを聞かされただけで、カグヤはシルバー・キングダムという王国の役割がよく分かった。

「クイーン……率直に聞かせていただきます」
「はい」

 カグヤは鋭い目をしている。

「シルバー・キングダムの……あの王国の地下深くにヴェーランスが封印されていたんですね?」
「「「「「!!?」」」」」

 カグヤの横にいたセレニティとその後ろに控える戦士たちは、心底驚いていた。

「まさかっ!!」

 黒い長髪をなびかせ、赤色のセーラ―服を纏ったマーズが声を発する。

「……はい…」

 マーズの言葉を受けて、目を伏せながらQ・セレニティが頷いた。

「負の力は予想以上に根深く、そしてしつこいものでした……」
「!!」

 そう言って、カグヤに視線を移すと、Q・セレニティは彼女に向けて頭を下げた。

「シルバー・キングダムを数多の天災が集中して襲ったのは、まぎれもなくヴェーランスの力……私たちシルバー・ミレニアムの一族は何もすることができませんでした」

 今や、月の王国の頂点に立つQ・セレニティが滅びた王国の生き残りに過ぎないカグヤに深々と頭を下げたまま話し続ける。

「シルバー・キングダムの一族だけでなく、私たちの一族も対策を練っておくべきでした」

 これは、私、Q・セレニティの失態だと、彼女は言うのだ。

「や、やめてください。顔を上げてくださいっ」

 カグヤはQ・セレニティに近づいて、焦って言う。

 もう、シルバー・キングダムは滅びてしまったのだ。

 過ぎてしまったことについて、深く考えても仕方がないのだ。

 カグヤは王国のことには、未練も何もないのだ。

 ただ、両親や王国の者たちが誰一人いなくなったことだけが、辛い事実というだけ……。

「シルバー・キングダムという要塞を崩したヴェーランスは封印を破り、この月の世界のどこかで潜んで、ほくそ笑んでいることでしょう」

 ヴェーランスは人の負の心を巧みに操る者。

 油断しては、彼女の思う壺。
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