昏い銀花に染められて…

□the past 5.
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「ん?あれ?何の香り?」

 カグヤの部屋に入った瞬間、セレニティは、今まだに香ったことのない匂いに反応した。

「あ、これ?」

 そう言ってカグヤは小さな匂い袋を持ってきた。

 そして、その袋を開けて、中身を手に出す。

「なぁに?これ?」

 カグヤの手には小さな橙色の花がたくさんあった。

 それは、小さいのに香りがとても強く、でも甘いその香りに酔いそうになる。

「金木犀っていうの。キンモク星にたくさん咲いていたのよ」
「ふぅ〜ん」

 セレニティは金木犀の花をじーっと見つめている。

「そんなに不思議?」

 金木犀の花をじっと見つめていたセレニティは、カグヤの方を見て頷いた。

「月にない花があったのね」
「そりゃ、あるでしょうよ」

 天然な発言に少し呆れながらカグヤはセレニティを見た。

「地球と……」

 真剣な目線をセレニティに向けて、カグヤが言葉を発した。

 金木犀を不思議そうに見ていたセレニティは目を大きく開いて反応した。

「何があったの?」
「………」

 セレニティの瞳が憂える。

「セレニティ?」
「………よくは、分からないのだけど……」

 言い澱みながらも、セレニティは話し始めた。

「地球に、ダーク・キングダムって勢力があって……それが何か…考えているみたい」
「考えているって?」
「………」

 カグヤが深く突っ込んで聞くと、セレニティは黙った。

「まさか、月への侵略!?」
「………」

 セレニティの沈黙は肯定ということだろう。

「そんな……」

 カグヤは心底驚いていた。

 まさか、長きにわたり良好な関係を築いていたと地球と、その関係がついに崩れる時が来るとは……。

 ソファに座って肩を震わすセレニティの横に腰かけ、カグヤは寄り添った。

「大丈夫よ。地球にはエンディミオンがいるわ……」
「うん……」

 窓の外に目をやると、夜も更けていた。

「さ、もう部屋に戻って寝なさいな」

 カグヤはセレニティの肩を持って、部屋に戻るように促す。

「うん」

 頷きながら、立ち上がり退出して行った。

 その背中は本当に淋しそうだった。

「………」

 部屋に一人になったカグヤはベッドに座り込み、窓の外を見上げた。

(キンモク星はどこかしら?)

 セレニティの淋しそうな背中を見て、自分も淋しい気持ちが込み上げてきた。

(ヒーラーに会いたいな……)

 もし、またキンモク星に行くことができるならば、彼女に伝えたいことがある。

 カグヤは膝を抱え込んで、その膝に顔をうずめる。

(淋しい……)

“キィィ”

「!?」

 部屋の扉が開く音が聞こえ、カグヤは顔を上げた。

“チリン”

 その扉から、しっぽに付けた鈴の音を鳴らしながらガーネットが入って来たのだった。

「ガーネットか……」
「何よ」

 ため息交じりに言われて、ガーネットも上目にカグヤを見ながら尖った口調で言った。

「ううん。……来て」

 そう言って、カグヤは両手を開いてガーネットを呼んだ。

 ガーネットは足早にカグヤのいるベッドまで歩いて行き、ピョンピョンと飛んで、カグヤの腕の中に納まる。

「どこに行ってたの?」
「ルナとアルテミスに会いにね」
「そっか……」

 自分が、Q・セレニティに挨拶に行ったり、P・セレニティと話したりするように、ネコにもネコの付き合いがある。

 ルナはセレニティ付き、アルテミスはセレニティを守護する四戦士のリーダーに当たる、ヴィーナスの付き猫だ。

「それより、どうかした?」
「え?」
「なんか、暗いから……」
「あ、うん……」

 カグヤはガーネットの頭に頬を付けながら答える。

「もしかして、P・エンディミオンに会った?」
「え!?」

 まさかの人物の名前にカグヤは顔を上げてガーネットの全貌を見つめた。

「…………………」

 そして、大きな目を開きながら考えた。

「カグヤ?」

 様子のおかしいカグヤをガーネットは訝しんだ。

「私……何も思わなかった」
「え?」

 低い声でカグヤは呟いた。

 先ほど、エンディミオンと会った時のことを思い出していたのだ。

 エンディミオンに対して、何も感じなかったのだ。

 気にしていたのは、地球との関係。

 そして、セレニティの様子だけだった。

 とても落ち着いて、エンディミオンと話していた。


―――やっぱり……私……


「カグヤ?」
「ねぇ、ガーネット……私ね……」

 とても穏やかな目をガーネットに向けて、耳にそっと呟いた。

(え!?)

 耳を立てて、紅色のネコは驚いてカグヤを真っ直ぐに見つめた。

「カグヤ……?」

 そのガーネットにカグヤは力強く頷いた。




†   †   †



 翌朝。

「カグヤ……P・カグヤ」

 朝も早くからお花畑に出ていたカグヤの元に四戦士を従えてP・セレニティがやって来た。

「何?セレニティ」
「お母様が、お呼びなの……」
「え?」

 また、何かしたのだろうか。

 まさか、キンモク星から何か言われたとか……などと、瞬時にカグヤは考えた。

 相変わらず、Q・セレニティの呼び出しには緊張が走るようだ。

「私たちも一緒に呼ばれているの」
「え?」

 ヴィーナスがカグヤに伝えた。

(セレニティやヴィーナスたちも一緒に?)

 一体どんな要件なのだろうか。

 カグヤは深く考え込みながら、セレニティとその戦士たちと一緒にQ・セレニティの部屋へと向かって行った。
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