昏い銀花に染められて…
□the past 5.
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「ただいま、帰星いたしました」
カグヤはムーン・キャッスルに到着すると、自室に荷物を置いてから、すぐにQ・セレニティのいる部屋へと挨拶しに向かった。
「お帰りなさい。急ですみませんでした」
Q・セレニティも優しい笑みを称えてカグヤを見て、言葉を掛ける。
「いいえ。十分に学んだあとでしたので、何も支障はありませんでした」
「そうですか」
Q・セレニティは、カグヤの纏う雰囲気が少し変わったなと思いながら見つめていた。
(やはり、あの星へ行かせて良かった)
安堵の息を吐きながら、そう思った。
「では、しばらくはゆっくりしてください」
その言葉を聞いて、カグヤは退出して行った。
「ふぅ〜」
「あら?意味深なため息」
「……」
Q・セレニティの部屋を退出して、廊下を歩くカグヤの横に一緒に歩くセレニティが目敏く、顔を覗き込んで来た。
「少し雰囲気が変わったよね?カグヤ?」
何を聞きたいのか、企んだような表情を見せながらセレニティは言う。
「そう?」
素っ気ない返事は、まるでヒーラーのよう。
カグヤは誤魔化すように、セレニティから視線を外す。
これはキンモク星で何かあったな、とセレニティは確信した。
(こういう時だけ、感が鋭いんだから…)
カグヤはため息が漏れそうだった。
「それより、本当に急だったんだけど、何かあったわけ?」
「え!?あ……うん……」
(?)
話題を変えたくて、呼び戻された理由をカグヤは聞いてみたのだが、珍しくセレニティの表情が曇る。
「どうしたの?」
天真爛漫なセレニティが、目を伏せてしまうなんて、これはただ事ではない。
(一体、何が起こっているの?)
自室に向かって、廊下を歩くカグヤは窓の外に目を向けながら、考えた。
「あ……」
「お……」
「ん?」
すると、セレニティがふと立ち止まって声を発した。
それと同じように、低い声も聞こえたので、カグヤは前方に視線を戻した。
「あら…」
そこにはエンディミオンが立っていた。
「帰ってきていたのかい?」
「えぇ…」
エンディミオンはカグヤに話し掛けた。
「あなたも、相変わらずここへ足繁くやって来ているのね」
カグヤは息を吐きながらエンディミオンに言った。
エンディミオンは少し苦い表情を見せながら、頷いた。
「だが、しばらくは来ることができなくなるかもしれない」
「え?」
思いもよらない言葉がカグヤの耳に入ってきて、彼女は驚いた。
「どうして……?」
そう聞きながら、先ほどから言葉を一切発さないセレニティの方を見ると彼女は、エンディミオンと目線を合わせず俯いていた。
(まさか……地球との関係が崩れている?)
眉間にしわを寄せながら、カグヤはまた、エンディミオンへと顔を向けた。
表情から読み取ったのか、エンディミオンはカグヤを真っ直ぐに見つめながら頷いた。
「そんな……」
驚愕の事実だった。
「では、また」
そう言って、エンディミオンは去って行った。
セレニティとは全く口を利かず去って行ってしまった。
カグヤはエンディミオンが去って行った方を咄嗟に振り返って彼の背中を見た。
そして、セレニティの方に視線をやった。
「セレニティ……」
「!?」
そっと近づいて、彼女の肩に手を添えた。
「行ったわよ」
「…うん……」
自分だけではなかった。
幸せだと思っていたこの場所でも、ヒビが入り始めている。
(だめ!!)
カグヤは心の中で思った。
(この王国だけは守らなければ……)
―――セレニティの幸せだけは……
そのまま、セレニティを連れてカグヤは自室へと入って行った。