沈黙の儚き風

□final story8
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「なんで?どうやって?」

 セーラームーンは困惑している。

 だが時雨は状況把握をしようとセーラームーンに尋ねた。

「あのおチビちゃんは?」
「……ちびちびは……」

 セーラームーンは目を伏せた。

 その表情だけで時雨は全てを理解した。

 ちびちびも消えたということだ。

 自分の前に舞ってきた光は弱々しかった。

 だが最期の力を振り絞って、この異空間に時雨を呼び寄せたというところか。

「あの子が<希望の光>だったんだね」
「っ!!?」

 セーラームーンが驚いた表情を見せている。

 あの球技大会の時に戦士として覚醒め、その力を目の当たりにした時に疑いの目を持っていた。

 それから聞いた<希望の光>の存在。

 時雨の中では繋がっていたのだ。

「あの子のお陰で、私の願いが叶うってわけだ…」

 時雨は肩の力を抜いて笑みを見せた。

 やっと、自分も力を貸すことができる。

「セーラームーンっ!!サトゥルヌスっ!!後ろっ!!」

 突然、下からファイターが叫んだ。

「っ!?」

 時雨は殺気を感じてセーラームーンを庇いながらその場で身を翻し、敵からの攻撃を避けた。

「……、これが、ギャラクシア?」

 攻撃してきたのはギャラクシアだった。

 だがその風貌は以前にディスコで見た時とは異なり、禍気に取り込まれ悪の根源と化してしまっていた。

 また目障りなネズミが増えたと濁った声が響き渡る。

 時雨は目を鋭くした。

 自分は魂で飛んできている。

 魂を抜き出した幼女はもういない。

 この状態は長続きはしないと感じていた。

 時雨は改めてセーラームーンを見た。

 セーラームーンは時雨の視線に反応する。

「セーラームーン…、あの時と一緒よ」
「え?」

 セーラームーンはなんのことかと目を大きく見開かせている。

 そんなセーラームーンの様子もお構いなしに時雨は自分の胸に手を当てた。

 そして、当てた手を握って、セーラームーンの前に差し出すと指を開いた。

「時雨ちゃん……」

 セーラームーンは思い出した。

 ファラオ90との戦いの時に敵の中枢へと向かったサターンを追いかけようと必死になっていた時に、時雨がやって来て力を貸してくれたのだ。

 その手に時雨の全ての力を結集した結晶を現して。

 今回もまた時雨の胸に当てた掌には結晶が現されていた。

「ほたるが言ってたの、“私たちのプリンセスを信じて”って…」

 やっぱりあなたは私たちの中心に立つプリンセスなんだと時雨は語る。

 私たちが護らなければならないかけがえのない存在。

「本当に、あなたの輝きは全てを包み込んでくれる」

 絶望を味わったけど、ほたるもはるかも時雨の中でまだ輝いている。

 セーラームーンを見ると自然とそんな気持ちになっていった。

「あなたの中で皆は生きている」

 だから負けないで欲しい。

 だから自分の力を受け取って欲しい。

「時雨ちゃん……」

 セーラームーンがそっと時雨の差し出す結晶に自分の手を重ねた。

「そうだね。私、諦めない」

 力強くセーラームーンが言った。

 時雨は頷いた。

「あっ!サトゥルヌス!」

 セーラームーンが結晶を受け取った瞬間に時雨の姿がその場からすっと消えていった。

 その場にいた一同は唖然とした。

 だがセーラームーンの手には時雨の力の結晶がある。

 眩しいほどの輝きが放たれている。

 消滅したのではないと確信をするとセーラームーンはギャラクシアへと勁い眼差しを向けた。







 次に時雨が目を開けると、そこは何もない白い世界だった。

 時雨は魂がうまく器に戻らなかったのかと不安に駆られた。

『時雨』
「っ!?」

 だが突然に後ろから声を掛けられて時雨は振り返った。

「そん…な…」

 時雨は呼び掛けてきた人物を確認すると目を大きく見開いた。

 心臓が大きく跳ね上がり驚く。

「どし…て…?」

 時雨は自然と足が動き、その人物に駆け寄って行った。

 そして強く抱きついた。

「会いたかった!!」

 強く言葉を言い放つ。

「ずっと会いたかったよ!!」



「ユージっ!!」




 真っ白の世界の中で時雨を呼び掛けた人物はユージアルだったのだ。





final story9  
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