沈黙の儚き風

□final story7
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 そうだった。

 ちょっと前までは厄介な存在だった。

 幼い頃の自分を知る唯一の存在。

 部外者だった榊。

 今では少しだけ関係者になってしまっている。

 そして、自分が一番安心できる存在。

(榊……)

 時雨は心の中で呼び掛けた。

 それから身体を離すとまたベッドに寄りかかって座った。

「あ〜ぁ、涙顔になってんじゃん」
「っ!!」

 時雨は指で頬を撫でられて驚いた。

「触らないでよっ!」

 榊の手を跳ねのけて時雨が口を尖らせながら顔を背ける。

 だが、すぐに榊の方に寄り掛かった。

「そうだった…」

 時雨がふと思い出したように呟く。

「あそこにはファイター…、星野くんがいたんだったね」
「そうさ…」
「榊だって、心配じゃないわけないんだよね…」
「あぁ…」

 自分に寄りかかる少女を横目で見ながら榊はじっと寄り添っている。

 そう。

 榊だって、皆のことを心配している。

 クラスメイトであるうさぎたちや星野がいっているのだから。

 そこに最愛の人が介入するとなると、それ以上に心配になる。

 こんなに塞いでしまうほど、厳しい戦いなのだから。

 ふと後ろの窓の外を榊は見上げた。

 空は相変わらず赤黒く、雷光が幾筋も見えている。

「ここは大丈夫なのか?」
「大丈夫だと思う。結界を張ったから」
 
 禍々しい気がどんどんと広がっているように思える。

 榊は身震いして窓から視線を戻した。

「っ!!?」

 その横で自分にもたれかかっていた時雨が弾かれたように頭をあげた。

「どうした?」

 急に起き上がり目を大きく見開かせた時雨は明らかに動揺していた。

 そしてその目に涙が溜まっていく。

「うそ…だ…」

 時雨は自分の口を両手で覆った。

「水野さんが…木野さん…、愛野さん…、火野さんが……消えた……」
「え?」

 榊は時雨が何を言ったのか一瞬呑み込めなかった。

 だが、どんどんと涙が溜まり、また頬を伝っていく時雨の様子を見てどういうことか理解した。

「4人の星の輝きが……」

 時雨は榊の方を見て、彼の胸に握った拳を置いた。

 そして、俯いたまま呟いた。

「消滅した…」



――四戦士が死んだ――




 時雨の恐れていたことが起こり始めた。





final story8
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