昏い銀花に染められて…
□the present 18.
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本来、ランカウラスの能力は、エナジーを奪うこと。
この一日で植えてきたその花々には、人間のエナジーを集めるように指示しており、そのエナジーが満ちれば、ヴェーランスは自分の器を形成することができるようになる。
それはつまり――今の器であるガーネットは必要なくなるということ。
ヴェーランスは力を取り戻すまでは、そのエナジー収集の方に専念するそうだ。
だが、ヴェーランスの最大の目的は、月の一族への復讐。
かぐやよりも、さらに力のある銀水晶を受け継いでいるであろうP・セレニティの生まれ変わりを殺すこと。
自分の体力を回復させることと、セレニティの生まれ変わりを探すことを同時にすることはなかなか難しい。
『そこで、お前には続けてセレニティの生まれ変わりを探して欲しいのだよ』
今まで黙って聞いていたかぐやが顔を紅潮させた。
そして、何かを言おうとしたところ、小さな前足を差し出され、遮られる。
『うまいことセレニティの生まれ変わりを見つけ出してくれたなら、この器は返すよ』
「なっ!!」
かぐやは思わぬ言葉が飛んできて驚いた。
『私と取り引きしよう』
「………」
眉間に皺を寄せて、かぐやは黙って少しだけ考えた。
目の前にいるのは、とても耳障りな声を発するヴェーランスだが、その姿形は愛するガーネットなのだ。
(ガーネットには、傍にいて欲しい……)
かぐやが悩んでいるのを面白そうに目を細めてヴェーランスは見つめている。
そして、改めて真っ直ぐに見つめてきた彼女の眼差しを認め、怪しく嗤う。
『決めたね?』
「本当に、ガーネットは返してくれるのね?」
『あぁ、もちろんだよ』
「……分かった。その取り引きに応じましょう」
かぐやのその言葉を聞き、ガーネットの姿をしたヴェーランスはまたくつくつと怪しく嗤って、暗闇の中へと消え去ってしまった。
「っ……」
かぐやはその後ろ姿に手を伸ばすが、しかし、伸ばしきる前にその手を引っ込める。
(アレはガーネットじゃない……)
かぐやはそっと瞳を瞑ると、淋しさを心の中に呑み込んだ。
「かぐやちゃんっ!!」
「?」
ヴェーランスが去ってからさらに一時間、かぐやはあの場を動かずに、ただベンチに座って、自分の膝に顔を埋めてじっと過ごしていた。
しばらくして、うさぎや育子が心配するだろうと思い、帰ることにした。
月野邸に戻り、もらった鍵で玄関の扉を開けると、その音を聞きつけて、うさぎが走ってやって来た。
「なかなか帰って来ないから心配してたんだよ!!」
それに、育子が先に食べていようと言うので、月野家は皆夕飯を済ませてしまっている。
「やだ、冷たい……こんな薄着で寒くなかったの?」
心底心配してくれていたようだ。
うさぎは矢継ぎ早に言葉を発する。
かぐやは重たい昏い眼差しをうさぎに向ける。
「……かぐやちゃん?」
さらに心配の色を濃くしたうさぎの表情を見て、かぐやはやっと笑った。
「心配させてごめん。ちょっと、考え事してたら、時間が経ってたの」
「そう……ご飯、食べる?」
「……うん、せっかく育子さんが作ってくれたから……」
―――取り引きしよう……
月野邸に戻って来て、うさぎの明るい表情を見ると、かぐやは、自分はなんて恐ろしい取り引きに応じてしまったのだろうかと思ってしまった。
信じたくない。
確かめたくもない。
かぐやの頭の中では、ある直感がずっとぐるぐるとまわっていた。
(でも……)
確かにヴェーランスの力はとても脆弱だった。
強さも、
怪しさも、
禍々しさも、
寒気もしないほど小さいもので、だから、まだ時間はあると思った。
まだ様子を見ながら、もう少し考えを巡らせてもいいかなと思った。
何が何でもガーネットは取り戻したい。
それだけは、かぐやの中ではっきりと示されていた。
⇒the present 19.