昏い銀花に染められて…

□the present 10.
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「ん…ん……」

 ちょうどランカウラスが散ったと同時に、かぐやが頭を押さえて目を覚ました。

「あなた、大丈夫?」

 ヒーラーは目を覚ましたかぐやに近寄った。

「え、えぇ……ランカウラスは?」
「!?」

 かぐやは頭を壁に打ち付けてしまっていたのか、頭を押さえたまま上半身を起こしてヒーラーにそう聞いた。

 ヒーラーはなぜ、かぐやがランカウラスを知っているのかが気になったが、とりあえず倒したことを伝えた。

「あなたが?」

 この時、初めてヒーラーを見たかぐやは視線を外せなくなった。

 銀髪の髪。

 切れ長のエメラルドの瞳。

 露出度の高い黒い服装。

(知ってる……)

 やがて、ヒーラーを見つめるかぐやの瞳は揺れ始めた。

「あなた……誰?」
「え?」
「あなた…会ったことある?」

 かぐやはヒーラーに尋ねた。

 瞳を逸らさずに。

 真っ直ぐに見つめて。

 ヒーラーはそのかぐやの反応に驚いた。

 そして、クスと一つ笑うと、かぐやに言った。

「私はセーラースターヒーラー。ヒーラーよ」

 かぐやの頬を触れてそう言うと、立ち上がって去って行った。

「………」

 かぐやはヒーラーの去った方を見つめたままじっとしていた。

(私…知ってる。あの人のこと……とてもよく知っていたような気がする)

 とても大切で、とても会いたかったヒト。

「かぐや?」
「っ!!」

 ヒーラーと名乗った女性のことを考えてたかぐやは頭上から声が降って来た声に驚いて見上げた。

「夜天……」
「大丈夫?どこかケガしてない?」

 そう言いながら差し出してきた手をかぐやは受けて立ち上がった。

「ううん。大丈夫」

 そして、ハッと思い出すと、リビングに寝転ぶ碧の元に駆け寄った。

「碧さん!!」

 かぐやが一つ呼び掛けると、碧は少し唸って、ゆっくりと瞼を開いた。

「かぐや?」
「はぁ……良かった……」

 かぐやは安堵の息を漏らした。




†   †   †



 碧が襲われるという事件があったが、とりあえず、落ち着きを取り戻したかぐやたちは、碧の家を後にした。

「心配かけてごめんね。私は大丈夫」

 それにしても何だったんだろうね。と碧は軽く言いながらかぐやたちを見送った。

「夜天は……」
「え?」

 駅の方に向かって、肩を並べて歩いていると、ずっと黙っていたかぐやが夜天に話し掛けた。

「夜天は…大丈夫なの?」

 語尾をごもごもさせながらかぐやは言った。

「ボクは大丈夫だよ」
「そう」

 口を尖がらせながらも、かぐやは「良かった」というような表情を見せた。

 そして、二人また歩いていると、ふとかぐやが足を止めた。

「?…かぐや?」

 気付かないで少し先まで歩いていた夜天は振り返ってかぐやを呼び掛けた。

 かぐやが立ち止まったのは、公園の前だった。

 夜天は少し戻ってかぐやに近づいた。

「どうしたの?」
「ここ……」
「え?」

 公園の方をじっと見つめたままかぐやは呟きがちに話し始めた。

「小さい頃によく来てたの……」
「淋しい?」

 夜天は、かぐやが小さい頃を思い出して、両親のことを思い出しているのではないかと気になった。

「ううん……金木犀……」
「金木犀?」
「そう。金木犀」

 そろそろ、金木犀が咲き乱れ、その香りを漂わす時期。

「かぐやは自然が好き?」
「え?」

 夜天にずばり言われたので、かぐやは驚いて夜天の顔を見つめた。

「なんとなく……ね」

 夜天も明るい笑顔でかぐやを見つめる。

「うん。自然は好き。だって、何も言わないもの……」
「ただそこにあるだけ?」
「っ!?」

 自分の言いたいことを言われてしまい、夜天にまた驚きの瞳を向けた。

「なんだか、全てあなたに見透かされているようで嫌だわ」
「いいじゃない。一人ぐらい、そういう人がいても」

 かぐやはまた黙った。

 苦い表情を見せているが、内心でかぐやは嫌ではなかった。

 夜天の言うとおり、一人ぐらい……夜天にだったら全てを見透かされていてもいいような気がした。

 そうして2人は帰って行った。




 家に着いたかぐやはガーネットを探した。

 かぐやのベッドに丸くなるガーネットを見てかぐやは心底腹を立てた。

「どういうこと!?」

 すると、耳をそよがせてガーネットが体勢を変えず、言葉を発した。

「別に、ただ、あなたの周りにいる人は可能性があるかなぁ〜と思っただけよ」
「〜〜〜〜」

 かぐやは歯を食いしばらせた。

「とにかく!碧さんにはもう手を出さないで!」
「もう手は出さないわよ。ハズレだったんだから」
「………」

 そう言うと、それ以上は話さずかぐやは着替えると、ガーネットを除けてベッドに潜り込んだ。

 ガーネットはベッドから放り出されたことに少し苛立ったが、そのまま床に敷いてある座布団の上に乗って、再び眠り始めた。





the present 11.
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