昏い銀花に染められて…

□the present 8.
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(やっぱり……)

 公園の奥へと走って来たかぐやは木の影に隠れて、ある光景を見ていた。

 そして、夜空を見上げると、三日月が輝いていた。

(ちょっとは大人しくなるかしら……)
「かぐや、何があ……」

 かぐやに追い付いた夜天は、彼女に声を掛けながら、彼女の視線を追った。

 かぐやの視線の先には、人の姿と化したランカウラスが、地面から伸びた蔦を安土に巻きつけてエナジーを吸い取っていた。

「夜天、朋野さんを」

 あとから追い付いて来た大気が、かぐやを連れて逃げるように夜天に声を掛けた。

「分かってる。かぐや、行くよっ!!」

 大気に返して、夜天はかぐやの腕を掴んで引っ張ろうとした。

 だが、その引っ張る手をかぐやは反発した。

「どうして、逃げるのよ」
「何言ってるの?」

 かぐやの予想外な答えに、夜天は振り向いて驚いた。

「ここは危険なんだぜ?」

 星野がかぐやを見下ろして言う。

「どこが?」

 ランカウラスは安土のエナジーを吸い取ることに気が行っていて、自分たちのことには気付いていない。

 それに、ランカウラスは、自分を襲うことはないという自信がかぐやにはあった。――彼らの前では言わないが。

「怖くないのですか?」
「人ならざるモノがいないと誰が言ったの?」

 そんなのは人間の思い込みで、ヒトの知らないところで何かが生きているだろうとかぐやは言うのだ。

「そんなこと言っている場合じゃないよ!!さ、かぐや!!」

 夜天たちは、あのランカウラスを一刻も早く退治したくて仕方ないのだ。

 かぐやは尚も反発していたが、男の力を持って、その場から引っ張って連れ出した。




「星野と大気は大丈夫なの?」

 あんまり心のこもっていない風で、夜天に聞いて来た。

「あぁ、大丈夫だよ」
「何を根拠に?」
「………」

 夜天はすべてを言うことはできないので、黙ってしまった。

「ま、いいわ。じゃぁ、私帰るわ」
「送るよ」
「いらないわ」
「どうして、そんな意地を張るかな?」
「どうして、家まで連れて行かなきゃいけないかな?」
「…………」

 かぐやは夜天を言い負かした。

「すぐ近くだし、もう大丈夫だから、じゃぁね」

 夜天はまだ食い下がろうとしていたが、かぐやは足早に去って行ったので、追いかけるのを躊躇われた。




「ただいま」

 真っ暗な家に帰ったかぐやは、一番に電気をつけた。

 そして、ベッドに丸くなっているガーネットの傍まで寄って行って、言葉を掛けた。

「ランカウラスの無駄遣い……」

 かぐやの声を聞いて、耳を立てたガーネットは顔を上げると、眠そうな瞳を見せて呟きがちに言った。

「だって、鬱陶しかったんですもの」

 安土に対して、意図的にランカウラスを植えて開花させたようだ。

 しょうがないなという表情を見せて、かぐやは着替えると、ベッドに潜り込み、ガーネットと共に眠りに入った。





the present 9.
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