昏い銀花に染められて…

□the present 7.
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「っ………」

 朝、登校していたかぐやは驚き、呆れて、開いた口が閉じない状態となっていた。

 綺麗な顔には似合わない、なんとも間抜けな顔だった。

「あっ!かぐや!!」

 朝も早くから、校門の前に、安土がいたのだ。

「あんた、何してるの?」
「お前こそ、どうしてこんなところに通ってるんだよ?」

 かぐやは、どうして自分も訳の分からないことをしているという括りに入っているのか、と思い、それが気に入らなかった。

「どうして引っ越す必要があったんだよ?」
「あなたには関係ないでしょう?」
「関係あるよ!!」

 頭二つほど背の高い安土を見上げながら、かぐやはため息をついた。

 何を言っても埒があかないと分かっている。

 安土は基本的に、自分の思うように事が進まないと気が済まないタイプだ。

「ほら」
「っ!!」

 呆れ果てていると、安土がかぐやの腕を掴んで、駅の方へと引っ張って行こうとする。

「放してよっ!!」
「嫌だ」
「かぐや?」
「っ!?」

 かぐやは、名前を呼ばれて暴れていた身体を止めて、振り返った。

 そこには、「何をしてるのさ?」と言いたげな夜天が立っていた。

 彼の後ろには、星野と大気もいる。

 また、安土も、かぐやに掛けられた声に反応してかぐやの腕を掴む手の力を少し緩めた。

 自分の名前を呼ぶ人物に、だいたい察しがついていたかぐやは、冷静を取り戻すと、緩んだ手を解いて、安土から逃げ、校門をくぐって校舎の方へと走り去って行った。

「あっ!!かぐや!!」

 安土はかぐやの去って行く方に手を伸ばして叫んだ。

「で、アンタ誰?」

 初対面のはずなのに、夜天は自分よりも背の高い安土にでかい態度で尋ねた。

「お前こそ、誰だよ?」

 かぐやの名前を呼んでいた夜天を、安土は睨みつけていた。

「なになに!?なんだか、険悪ムード……何があったの?星野?」

 その時、うさぎたちがやって来て、夜天が知らない誰かとにらみ合いをしているのを見て、星野たちに尋ねた。

「いや、俺もよく分からないんだけどよ……」
「朋野さんのお知り合いのようですよ」

 星野と大気は、推測で答えた。

「へぇ〜、立派に男がいたんじゃないか」

 かぐやの第一印象が悪いまことは、両腕を頭の後ろで組みながら、嫌味ったらしく言う。

「いや、でもそれにしても、鬱陶しそうだったぞ」

 星野が間髪入れず、まことに突っ込む。

「掴まれた腕を解こうと、必死で抵抗していましたし」

 大気も続けて教える。

「………」

 そんな皆の一歩後ろでは、普段なら明るい美奈子が、真剣に考え込んでいた。

「美奈子ちゃん?」

 最近、少し様子のおかしい美奈子を観察していた亜美は、呼びかけてみた。

 すると、急に正面を見たかと思うと、校門の方に歩を進め始めた。

「………」

 亜美は、美奈子の後ろ姿を心配げに見つめていた。




(ったく……なんなのよ……)

 本当に厄介なヤツに嗅ぎつけられたなと、かぐやはため息をついていた。

 そして、鞄の中身を机の中に入れようとする。

“バンっ!!”

「っ!?」

 教室の扉が乱暴に開かれる音がして、かぐやはそちらを見た。

「っ!!」

 自分の席に落ち着き始めていたかぐやは眉間にしわを寄せて、嫌な顔を見せた。

 まだ、自分の教室には寄っていないのか、鞄を持ったままで他クラスの美奈子がこちらに向かってくる。――そして、かぐやの前で立ち止まり、笑顔を見せた。

「何の用?」

 かぐやは立っている美奈子を見上げて、とても冷めた視線を送って聞いた。

「あの校門にいた人は誰なの?」
「あんたに何の関係があるの?」
「もしかして、困ってる?だったら力になるよ」
「人の話、聞いてる?」
「深い仲なの?それとも……」
「五月蝿いなっ!!」

 いつも、静かなかぐやが教室中に響き渡るほど感情的に叫んだ。

 教室にいた生徒たちは驚いて、かぐやと美奈子の方を向いた。

 かぐやは両手を机に置いて、立ち上がっていた。

 美奈子と目線を合わせて、近づくな、関わるなという冷ややかな目を向ける。

「他クラスまで来て、人の身辺調査しに来るほど暇なら、参考書の一つでも読んだら?」
「!?」

 かぐやは美奈子から目線を外すと、ドカっと椅子に座り直して、また美奈子を見上げた。

「あんまり、名前を名乗らない方がいいんじゃない?あなたこの前のテストの成績、悪かったわよね?」

 美奈子は反論のできない話題をされて、一歩退いてしまった。

「私は、自分のことを易々と話すつもりはないから」

 そう言うと、鞄の中のものを机に入れ始めた。

 美奈子は、煮え切らない表情をしていたが、何を言っても返せないので、トボトボと教室を出て行った。

(ふぅ〜)

 やっと自分だけの殻にこもれるようになったかぐやは、また一つため息をつくと、窓の外を見た。

 もうすぐHRが始まる。

 ほとんどの生徒は登校しているだろう。

(………まだいる……)

 校門の方をじっと見ると、人影が見えている。

(塀に隠れたつもりなのかしら?)

 背の高い安土の頭は、塀からはみ出て見えていた。

(はぁ〜)

 面倒事が増えたことにかぐやは最大のため息を吐いた。
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