昏い銀花に染められて…
□the present 3.
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十番高校、1年6組にて。
今は、午前の授業が終わったばかりで、皆昼休みに突入したところ。
お弁当を広げたり、食堂に向かったりするこのクラスの生徒たちの何人かは、コソコソと話し合っていた。
「またよ…朋野さん……」
「そうね。今日は珍しくHRはいたのにね」
「1限目が始まる前にいなくなったよね」
「本当に、どこでサボっているのやら……」
クラスの中でコソコソと話されているのは、夏休み明けに転入してきたクラスメイトのことだ。
転入して来た時から、人を寄せ付けないで、いつも独りでいる。
初めは興味や好奇心から話し掛けていたクラスメイトも、邪見に扱われるので、次第に離れて行った。
今や、窓側の自分の席から、独りで外を見上げているか、いつの間にか教室から姿を消しているか。
最近では、連続して授業をサボり始めている。
だから、その人物の顔を知らないという教科担当の先生もいる。
また、授業をサボることは、その人物にだけ不利益なわけで、個人の思うように、好きなようにすればいいことなのだが、それが気に入らない人たちも、次第に出てくるわけで……。
コソコソと愚痴をいうかのように話し合う者たちも出てきているわけである。
“ニャァ〜”
十番高校の校内に、校舎に囲まれた、ひと気のない場所が一つあった。
そこに、漆黒の長い髪を流した、一人の女生徒が大木に寄りかかって眠っていた。
その少女の名前は【朋野 かぐや】と言う。
かぐやは夏休みが明けてから、この十番高校に転入して来たのだ。
初めは、そこそこ授業を受けていたのだが、最近ではこのひと気のない場所で、ガーネットと話しているか、一人で寝ているということが多い。
そのかぐやの足元には紅色のネコがいて、しきりに鳴いていた。
「ん…ん……?」
その鳴き声がやかましかったのか、眠っていたかぐやは目を覚ました。
「なぁ〜に?ガーネット?」
紅色のネコを抱き上げ、膝の上に乗せると、優しい大人な表情を見せてそのかぐやが話しかけた。
「もう、お昼よ。授業に出なくていいの?」
紅色のネコ、ガーネットはしっぽについているリボンの鈴を“チリン”と鳴らしながら、かぐやにしょうがないわねといった表情を見せていた。
「あら、もうお昼なの!?」
慌てた様子は皆無。
そうなんだ。というような声音でかぐやは答えた。
「じゃぁ、午後の授業は出た方がいいわね」
そう言って、かぐやは立ち上がり、スカートの裾を叩いてその場から教室に向けて歩き始めた。
ガーネットはその場に残って、かぐやを見送っていた。