昏い銀花に染められて…

□Episode 0.
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「クスクス。ヒーラー、不器用ね」


 それから、あなたはたくさん笑ってくれたわ。

 毎日のようにお花畑に繰り出して、花を生けたり、アレンジしたり、ただ話したり、様々に過ごしたわ。

 楽しかった。


この時すでに、私はあなたを……





 そして、一年が経つ。

 長かったような、短かったような……。

 着々と運命が近づいていた。


 あなたも淋しかったの?

 急に発したあの言葉。



「今まで、”幸せ”と思った次の瞬間に
それらが崩れ去って行ったの……」


「今回もそうなるんじゃないかって
……怖いのよ…」



 何が言いたいのか、本当のところ分からなかったけど、今回のことを暗示していたの?

 そして、私は抱きしめることしかできなかった。




 カグヤの言葉通りというか……まだ、この星に一ヵ月いるはずだったのに、カグヤは月に呼び戻された。

 カグヤの銀花が曇っていく。


―――その銀花を大切にしたいと思っていたのに!!


 人生うまくは行かないってことかしら。




 その夜、カグヤの部屋へ入ると、彼女は荷物をまとめていた。

 私に気付くと彼女はその手を止めて、私を見た。

「あ、ヒーラー、ちょうど良かった」

 カグヤは思ったよりも明るかった。

 でも、銀花は見えない。

 カグヤは私の方に近づくと、掌を開いて、私に差し出す。

「?」

 その手には紅色の宝石があった。

「私の誕生石の“ガーネット”、あなたに持っていてほしいの」

 私は驚いた。

 初めはとても素っ気なかった私に、プレゼントだなんて。

「じゃぁ、私もコレ」
「!?」

 力を抜いて笑って、私は彼女の掌にある宝石を取って、代わりに小さい袋を乗せた。

「これ……金木犀の香り!?」

 カグヤの銀花が少し、咲いたような気がした。

 私はお茶に浮かべる、金木犀を袋に詰めて持って来た。

「これ、好きでしょう」
「うん♪」

 また、プリンセスらしからぬ、お転婆な笑顔を見せる。

(本当に……)


―――愛しい


「!!」

 カグヤのことが愛しくてしょうがないと思っていると、カグヤの方から抱きついて来た。

 彼女は泣いていた。

 私は彼女を抱きしめ返し、頭を撫でた。




 翌日、彼女はキンモク星を発った。


「戻って来るから」



 いつの間にかカグヤは勁くなっていた。

 私は微笑ましかった。



「もし、戻って来れたらね
……言いたいことがあるの」



 あの言葉の先は何を言おうとしていたのだろう。

 私も、あなたに伝えたい言葉があったのに……




「ヒーラー」
「!!」

 思い出深いお花畑に突っ立っていると、私の肩に手を添えて、声を掛けられた。

 振り向いた先にはファイターとメイカーがいる。

「残念だったわね」

 ファイターが言う。

「信じられません、本当に…」

 メイカーも萎れている。

「でも、星はまた生まれ変わるわ」
「!?」

 私はファイターの言葉に目を見開いた。

「カグヤさまは十分輝いていらした」
「生まれ変わって、きっとまた輝きを放って、どこかで幸せに過ごしすかもしれません」

 メイカーも続けて言う。

 同志の言葉に、私も前進しなくては、と思った。

 だけど――…



あなたを心から愛している




この言葉は伝えたかった……






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