昏い銀花に染められて…

□the past 6.
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遥か昔から、
月にはシルバー・ミレニアムが栄えていた。

そのシルバー・ミレニアムには
2人の美しいプリンセスがいた。

1人は姉で、漆黒の長髪を輝かせながら流し、瞳はどちらかというと鋭く、
いかにも長女っぽい、
しっかりした印象を受ける。

もう一人は妹の方で、
銀髪を2つのお団子に結い、
さらに余った髪をツインテールに下して、
とても落ち着いた優しい面持ちをしている。

そして時は経ち、
妹がシルバー・ミレニアムのクイーンとなり、
その王国を統治することとなった。

元々仲の良い姉妹だったので、
姉はクイーンとなれなかったことについて、
悔しがることもなく、妬むこともなく、
むしろ、妹を補佐するようになっていた。

月にたった一つの王国。

それが、月全土を治めていた。

しかし、月全土に小まめに
目が行き届くわけもなく、いつの頃からか、
禍々しい妖気を放つ“魔女”が
月の裏側に棲みついていた。

シルバー・ミレニアムの上に立つ2人も
それには気付いていた。

だが、何の対策を練ることもできないまま、
平和で幸せいっぱいのシルバー・ミレニアムに悲劇が襲った。

いつもは穏やかなシルバー・ミレニアムの
民たちの気性が荒くなり、
次第に暴力沙汰が起こった。

直ちにシルバー・ミレニアムのクイーンと
彼女の姉はその騒ぎの根源を探った。

辿り着いたのは月の裏側。

そこには月の世界でも見たことない
銀の花が咲き乱れていた。

怪しく艶やかなその花は、
人々のエナジーを吸い取ることが分かった。

そこでシルバー・ミレニアムのクイーンは
自らの力を放ち、その花々を浄化した。

自分の育てた花々が散らされたことに
気付いた魔女は、2人の前に姿を現した。

2人はその魔女の禍々しさに一瞬臆した。

その魔女は妖艶な笑みを見せて口を開いた。

『我が名はヴェーランス』

彼女は、人々の心に秘めた憎しみを
増幅させて、争いを導く者。

ひどい時には、一つの星の全ての者が
憎しみに呑まれて、殺し合いをし、
その末、星が滅びることもあったようだ。

彼女はそうなることを見ていることが
好きなのだ。

2人は野放しにできないと思い、
自分たちの心の結晶の力を解き放ち、
力を合わせて魔女を地中深くに封印した。

魔女の力は底知れず、自分たちよりも
大きい力だったので、
2人の力では封印しかできなかった。

だから、シルバー・ミレニアムのクイーンの
姉は、この地に自らを置き、
魔女に封印を破られないように
見張ることを提案した。

シルバー・ミレニアムのクイーンは
考えあぐねたが、姉の提案を受け入れた。

そして、
この地にシルバー・キングダムという
王国が栄え始めた。





「………」

 カグヤはシルバー・ミレニアムの中心に建つムーン・キャッスルの図書室に来ていた。

「………」

 先日、Q・セレニティに告げられたシルバー・キングダムの真の使命と、その末路の原因に衝撃を受けたまま、いまいち元気が出ないでいた。

 何かをしないではいられなかったカグヤはとりあえず、図書室へ赴き、当時の記述を探していたのだ。

 見事探し当て、しばらく読んでいた。

(ヴェーランスはQ・セレニティとお母様をずっと恨んでいた…)

 カグヤはパタンと読んでいた記述が書かれた本を閉じると、一点を見つめながら考えていた。

 Q・セレニティはヴェーランスが黒魔術を扱うと言っていた。

 シルバー・キングダムを襲った、あの集中的な様々な天災はヴェーランスの溜まった憎しみや怒りの表れか。

「………」
「カグヤ」
「!?」

 黙って考えに更けていたカグヤは名を呼ばれるまで、近づいて来ていた人物に気付かなかった。

「セレニティ!?」
「………」

 呼び掛けて来たのはセレニティだった。

 そのセレニティは俯いたまま、黙っていた。――不安なのだ。

 地球の者たちの不穏な動きもヴェーランスのせいかもしれない。

 今、セレニティもヴェーランスの新たな被害者候補だ。

「大丈夫よ」
「え?」

 黙っているセレニティにカグヤは言葉を掛けた。

「何が…って言えないけれど、きっと何とかなるよ」

 カグヤは基本的に男らしいサバサバした性格だ。

 根拠のない明るさは相変わらずだなとセレニティは思った。

 だが、カグヤにそうやって言葉を掛けてもらうと、なんだかすっきりする。

 セレニティはカグヤに笑顔を見せて頷いた。
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