昏い銀花に染められて…

□the past 4.
1ページ/4ページ

「う〜〜ん。やっぱり難しいわね」

 火球を主とするキンモク星の城内にある、様々な花が咲き乱れるお花畑でカグヤとヒーラーはフラワーアレンジメントをしていた。

 カグヤはシルバー・ミレニアムでも、よくお花畑に繰り出して花を編んだり、生けたりしていたので、慣れた手つきである。

 しかし、そのカグヤに教えられながら、編んでいるヒーラーの作品は、所々で茎や葉が飛び出していて、少し不格好だ。

 カグヤがキンモク星に来て、すでに一年が経過しようとしていた。

 最近は毎日昼食前と夕食前の何もない自由な時間は、ヒーラーと何かしらして過ごしていることが多い。

 同志であるファイターとメイカーも驚くほどの、仲の良さであった。

「貸して、ヒーラー」

 クスクスと笑いながらカグヤは、ヒーラーの編んだ物の最終手入れをする。

 やはり、慣れない手つきであるので、形は不細工だが、カグヤが手入れしただけで、見栄えが良くなった。

「やっぱり、違うわね」
「無理矢理編もうとするからよ」

 まだクスクスと笑っている。

 ヒーラーはそんなカグヤに少し拗ねた態度を見せた。

「人の顔やその成りが一人ひとり違うように、花や草にも一本一本、性質があるのよ」

 それをよく見て、その花や草にあった編み方をしなければならないのだ。

「私に、それは見分けられないわ」

 ため息をつきながらヒーラーは言った。

「あなたはいつも自然と過ごして来ていたのね」

 カグヤに優しく微笑みかける。

「うん……」

 カグヤも満更でもないようだ。――照れくさそうに笑っている。

 ここ数か月、一緒に過ごす時間が多くなり、カグヤの様子を小まめに見ているが、昏い目はしなくなっていた。

 今も、花が咲いたような笑顔を見せている。

 ヒーラーはそんなカグヤの表情を見ることができて、心から喜んでいた。


―――これを……言うんでしょうね、きっと……


 ヒーラーの方が珍しく、淋しい眼差しを作る。

 あと1ヵ月すれば、カグヤは月へと帰ってしまう。

(たった1年しか、まだ一緒に暮らしていないのに……)

 もう何年も一緒に暮らしていたかのよう――…

 それほど、カグヤの存在がヒーラーの中で大きくなっていた。

 この少女のいないこの星がどうだったかなど覚えてはいない。

 ヒーラーは明るい表情を見せるカグヤをじっと見ていた。

「ヒーラー?」

 カグヤはその視線に気づいた。

 だが、ヒーラーはふいっと視線を外してそっぽを向くだけだった。

「?」

 そういうことには鈍いカグヤは疑問符を頭の上に浮かばせていた。

(私ったら、何を考えているのかしら……)

 カグヤから視線を外したままヒーラーは思った。


―――カグヤは一応、プリンセスなのに……




†   †   †



 それから数日後。

「失礼するね」

 そう言って、カグヤはスターライツの部屋へと入って行った。

 彼女は教科書と筆記用具を持っていた。

「どうかしましたか?カグヤさま?」

 勉強面担当のメイカーがそれに気づいて、話し掛ける。

「うん。あのね、ここがイマイチ分からなくて……」

 それは、キンモク星特有の科目で、聡明なカグヤでも頭を悩ますものだった。

 メイカーは分からない箇所を聞き、すぐにテーブルの前に座るように促した。

 スターライツの部屋だから、もちろんメイカー以外にファイターとヒーラーもいる。

 メイカーと楽しそうにしている様子を、ソファに寝転びながら、横目で見ながらヒーラーの内心はイライラしていた。

 最近、明るくなり、誰にでも笑顔を振りまくようになった。

 それが少し嫌なのだ。――ジレンマ。

 ファイターはそのヒーラーに近づいて行った。

「ちょっとヒーラー、どうしたの?」

 その表情は“からかっている”と丸わかりの表情だった。

 ヒーラーはファイターと付き合いが長いので、こういうファイターが心底面倒なのは身に染みて分かっている。
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ