昏い銀花に染められて…
□the past 4.
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「う〜〜ん。やっぱり難しいわね」
火球を主とするキンモク星の城内にある、様々な花が咲き乱れるお花畑でカグヤとヒーラーはフラワーアレンジメントをしていた。
カグヤはシルバー・ミレニアムでも、よくお花畑に繰り出して花を編んだり、生けたりしていたので、慣れた手つきである。
しかし、そのカグヤに教えられながら、編んでいるヒーラーの作品は、所々で茎や葉が飛び出していて、少し不格好だ。
カグヤがキンモク星に来て、すでに一年が経過しようとしていた。
最近は毎日昼食前と夕食前の何もない自由な時間は、ヒーラーと何かしらして過ごしていることが多い。
同志であるファイターとメイカーも驚くほどの、仲の良さであった。
「貸して、ヒーラー」
クスクスと笑いながらカグヤは、ヒーラーの編んだ物の最終手入れをする。
やはり、慣れない手つきであるので、形は不細工だが、カグヤが手入れしただけで、見栄えが良くなった。
「やっぱり、違うわね」
「無理矢理編もうとするからよ」
まだクスクスと笑っている。
ヒーラーはそんなカグヤに少し拗ねた態度を見せた。
「人の顔やその成りが一人ひとり違うように、花や草にも一本一本、性質があるのよ」
それをよく見て、その花や草にあった編み方をしなければならないのだ。
「私に、それは見分けられないわ」
ため息をつきながらヒーラーは言った。
「あなたはいつも自然と過ごして来ていたのね」
カグヤに優しく微笑みかける。
「うん……」
カグヤも満更でもないようだ。――照れくさそうに笑っている。
ここ数か月、一緒に過ごす時間が多くなり、カグヤの様子を小まめに見ているが、昏い目はしなくなっていた。
今も、花が咲いたような笑顔を見せている。
ヒーラーはそんなカグヤの表情を見ることができて、心から喜んでいた。
―――これを……言うんでしょうね、きっと……
ヒーラーの方が珍しく、淋しい眼差しを作る。
あと1ヵ月すれば、カグヤは月へと帰ってしまう。
(たった1年しか、まだ一緒に暮らしていないのに……)
もう何年も一緒に暮らしていたかのよう――…
それほど、カグヤの存在がヒーラーの中で大きくなっていた。
この少女のいないこの星がどうだったかなど覚えてはいない。
ヒーラーは明るい表情を見せるカグヤをじっと見ていた。
「ヒーラー?」
カグヤはその視線に気づいた。
だが、ヒーラーはふいっと視線を外してそっぽを向くだけだった。
「?」
そういうことには鈍いカグヤは疑問符を頭の上に浮かばせていた。
(私ったら、何を考えているのかしら……)
カグヤから視線を外したままヒーラーは思った。
―――カグヤは一応、プリンセスなのに……
† † †
それから数日後。
「失礼するね」
そう言って、カグヤはスターライツの部屋へと入って行った。
彼女は教科書と筆記用具を持っていた。
「どうかしましたか?カグヤさま?」
勉強面担当のメイカーがそれに気づいて、話し掛ける。
「うん。あのね、ここがイマイチ分からなくて……」
それは、キンモク星特有の科目で、聡明なカグヤでも頭を悩ますものだった。
メイカーは分からない箇所を聞き、すぐにテーブルの前に座るように促した。
スターライツの部屋だから、もちろんメイカー以外にファイターとヒーラーもいる。
メイカーと楽しそうにしている様子を、ソファに寝転びながら、横目で見ながらヒーラーの内心はイライラしていた。
最近、明るくなり、誰にでも笑顔を振りまくようになった。
それが少し嫌なのだ。――ジレンマ。
ファイターはそのヒーラーに近づいて行った。
「ちょっとヒーラー、どうしたの?」
その表情は“からかっている”と丸わかりの表情だった。
ヒーラーはファイターと付き合いが長いので、こういうファイターが心底面倒なのは身に染みて分かっている。