昏い銀花に染められて…

□the past 3.
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 カグヤがキンモク星に来てから、5ヵ月が経とうとしていた。

 そこでの生活はいつも同じ、繰り返しの日々。

 メイカーに勉強を習い、ファイターに戦士のノウハウを教えてもらい、火球とは談笑し、ヒーラーとはあまり話すことのなく、すれ違うことが多い。

 未だにヒーラーはカグヤを遠ざけている。

 そのスターライツの3人は、朝早くから、火球の部屋に集まっていた。

 別段、用事というものはないのだが、なんとなく火球の傍にいたいと思い、自然と3人が集まったという次第だ。

 火球も、スターライツが傍にいるということは、昔から慣れていることなので、部屋にいても特にきにならない。

「そういえば、最近、P・カグヤの様子はどうですか?」

 火球はスターライツといる時のカグヤはどんなだろうと気になり、聞いてみた。

「はい。とても聡明な方ですよ」

 勉強面で関わっているメイカーが答えた。

「戦士についても、色々と知識を積んでいるようです」

 ファイターも活き活きとした様子で火球に答えた。

 だが、一人だけ口を開かず答えない人物がいた。

「ヒーラーはどうですか?」
「っ!!」

 火球はヒーラーの方に体ごと視線を向けて聞いた。

 プリンセス…というより、どこかの小娘かのような、いたずらっぽい笑みを見せている。

 ヒーラーは半眼になってため息をついた。

「そうですね……影のある娘だと思います」
「影?」

 火球はヒーラーの言葉を聞いて、とても真剣な眼差しを見せた。

「そうですか……まだ…」
「「「??」」」

 全てを言わず、消え入るように呟いた火球の様子を見て、3人はどうしたのかと思った。

“コンコン”

 そんな時、火球の部屋の扉をノックする音が聞こえた。

「はい。どうぞ」

 火球は優しい声音で扉の向こうにいる人物に言葉を掛けた。

「火球サマ、失礼致します」

 扉を開けて入ってきたのは、先ほどまで話のネタになっていたカグヤだった。

「まぁ、どうしました?」

 今は、話をする時間ではない。

 お互い、自由の時間なのだが、カグヤはやって来た。

「あの……お花畑のお花たちが、とても綺麗に咲き乱れていたので……」

 そう言って、カグヤは、底の浅い花瓶に花や草をとても鮮やかに生けたものを差し出した。

「そしたら、なんか生けてみたくなりまして……」

 扉の前から動かず、少しそわそわしながら心境を語る。

「火球サマをイメージして生けさせていただきました……お部屋に…いかがでしょうか?」

 語尾を少し小さめに、控えめに、その生け花を差し出すカグヤに火球は笑顔を見せた。

「本当に、綺麗ですね。ぜひ、お部屋に飾りたいと思います」

 火球のその言葉を聞いて、カグヤは表情をパッと明るくして、火球の傍まで歩み寄って行った。

「ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ」

 カグヤから差し出された生け花を、火球は受け取った。

 すると、カグヤの背後からファイターとメイカーが顔を覗かせた。

「あら、本当に素敵じゃない」
「とてもセンスがありますね」
「!!」

 火球に快く受け取ってもらったことに、心底喜んでいたカグヤは、背後まで気を配っていなかった。

 急に声が降ってきたので、驚いて2人の方を向いた。

「何驚いてるのよ?」

 ファイターは、戦士について、戦いについて、背後にも気を配るようにいつも講義していることを忘れたのかと、少し残念そうな雰囲気を見せた。

「これ、私にも作ってくれませんか?」

 メイカーは、火球の持っている生け花を見ながら、言った。

「え?」

 カグヤは目を大きく見開いて驚いた。

「メイカーだけじゃなく、私にも作ってよ」

 ファイターも乗り遅れないように、焦って言う。

 2人にそう言ってもらえてカグヤは心底嬉しかった。

「いいよ。分かった」

 ファイターとメイカーに返事をした後、カグヤはチラッとヒーラーの方を見る。

(ヒーラーは見てもくれないのね……)

 少し残念そうにしながら、カグヤは退出して行った。

 そして、静かになった火球の部屋で、ふいに火球がクスクスと笑い始めた。

「「「?」」」

 3人とも何事かと思って、火球の方を見る。

「なんだか賑やかですね」

 カグヤがいた時と、退出して行った後との部屋の雰囲気の違いが火球には可笑しかったようだ。

 少なからず、ファイターとメイカーはもう、カグヤを受け入れている。

 そして、ヒーラーも素っ気ない態度を見せているが、心の片隅では気にしているのではないだろうかと火球は感じているのだった。

 火球は、このキンモク星で面白可笑しく、楽しく過ごすことで、ヒーラーの言っていたカグヤの影が消えればいいと思っている。

(あの娘の人生は過酷すぎた……)

 フッと哀しい表情を見せて、火球は思った。

 その傍らで、カグヤを無視していたヒーラーは、カグヤが生けた花を見つめていた。
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