昏い銀花に染められて…
□the past 2.
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キンモク星にやって来たその日、カグヤは火球に城を案内してもらい、自分が使う部屋も気負うことなく好きなように使っていいと、懇切丁寧に言ってくれた。
その日は夕食を共に摂って、それから借りている部屋へと向かってベッドに潜り込んで疲れ切った体を癒していた。
カグヤは崩壊したシルバー・キングダムの生き残りとして、シルバー・ミレニアムに引き取ってもらった身だ。
シルバー・ミレニアムの正統継承者である、Q・セレニティとP・セレニティは自分を生まれた時からそこにいた者のように扱ってくれていたが、そうは思わない者も城内――いや、王国の中にはいたのを、カグヤは気付いていた。
だからカグヤはシルバー・ミレニアムの者たちとは深く関わろうとは思っていなかった。
居場所がないから、いるだけだ。
(………)
最近は、セレニティが何かと傍にいて、あの笑顔を振りまいてくれていたから、あまり暗い想いを抱いてはいなかったのだが、久しぶりにセンチメンタルな気分に浸ってしまっている。
きっと、火球が独断で決めてどんどんと事を進めていたのだろう。
火球に控えている3人の戦士のうち、ファイターとメイカーの2人は優しい雰囲気を醸し出して、“一応”快く迎えてくれていることが分かった。
だが、“一応”と思えるような、面倒事だなというような雰囲気は隠せていない。
さらに如実にその雰囲気を出しているのが、ヒーラーだ。
(挨拶ぐらいまともにしたってバチ当たらないでしょうに…)
カグヤはキンモク星に降り立ったすぐに見た、ヒーラーの怠そうな、嫌そうな表情を思い出していた。
彼女たちの纏う負の雰囲気がカグヤにはひしひしと伝わってしまっているのだ。
(シルバー・ミレニアムにやって来たばっかりの時のよう……)
「大丈夫?」
ふぅとため息をつきながら、ベッドでゴロゴロしていると、ピョンとベッドに上がってきたガーネットが心配して言葉を掛けてきた。
「う〜ん……」
煮えかえらないカグヤの返事にガーネットも眉を動かす。
「まぁ……慣れるまでの辛抱よ」
ガーネットは優しい声音でカグヤを励ます。
「そうだね……」
そう言うと、カグヤはガーネットを抱きしめて、布団の中に潜り込んで眠った。
旅の疲れと、気疲れでもう起きていられなくなっていたのだ。
ガーネットもカグヤに寄り添って、一緒に眠りについた。
† † †
そして、カグヤがキンモク星に来てから、早1ヵ月が経っていた。
カグヤはあれから、週に1回は火球の部屋へと向かい月とキンモク星の情報交換や、一緒に他愛のない話をして過ごしたり、ファイターにはプリンセスを護る戦士について、話を聞いたり、実戦してもらったりしながら勉強し、メイカーからはキンモク星の歴史などを学んでいた。
唯一ヒーラーとは未だに馴染めないでいる。
「ちょっと、もう少し大人になったらどうなの?」
その夜、スターライツは自分たちの部屋で話していた。
ファイターがいつまでもカグヤと関わろうとしないヒーラーに説教を始める。
「そりゃぁ、私たちだって、最初は面倒だと思っていたわよ」
他の星の者が少し訪問しに来ては、少し話し、すぐに去って行くということは、今までに何度もあったことだが、長期滞在はないことだった。
しかも、プリンセスという位の者が――…。
「他の星のプリンセスまで護衛しなきゃいけないのは重荷だけれども、関わってみると結構素敵な子よ」
ファイターはカグヤと1ヵ月関わってきて、その彼女の魅力を知った。
「そうですね。私たちの星の歴史もすっかり覚えてしまいましたよ」
メイカーもカグヤの聡明さに驚いていたのだ。
「あっそ」
1ヵ月で変わってしまった2人の態度には、同志としては驚きだったが、それでもヒーラーはカグヤに興味が持てなかった。
そんな態度のヒーラーにため息を漏らしながらファイターが尋ねた。
「どうして、受け入れられないの?」
火球王妃に一番忠実なヒーラーが、今回は従わない。
火球自身も「命令する」というより、「お願い」という形で指示することが多いので、絶対従わなければならないというわけでもないのだが、珍しいことだった。
「あの娘、そんな単純じゃないよ」
ヒーラーはソファに寝転がり両腕を枕にした怠惰なかっこうのまま2人に話し出した。
「あのプリンセス、暗い影を背負っていると思うよ」
ヒーラーがカグヤと同じ場所にいるところを見たことのない2人は、いつ、彼女を観察したのだろうかと顔を見合わせて思っていた。