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古泉+森さんSS


ポケットに震動が伝わった。
僕はその震えを耳にあて、応答する。

「すみません涼宮さん。急用が出来たので失礼します」

彼女と、それを取り巻く彼らの返事も待たずに僕は走り出した。


灰色の街を進む。途中味方に何度も会ったが、皆ふらふらと彷徨っているようだった。指定された場所――以前彼を此処に案内する際来た場所――に着くと、

「遅いですよ。臨機応変が利けば2分37秒短縮出来るはずです」

この服以外を纏った姿を見た事がない。森さんは淡々と僕に告げた。

「すみません。今さっきまでその当の本人と活動していたので・・・」

彼女の眉がぴくりと動いた。

「・・・一緒にいたんですか?どうしてここまで暴走しているのに止めなかったんです!」

――え?

「・・・どういう意味ですか」

意味がわからない。この閉鎖空間の存在にも耳を疑う程だったのに、・・・「暴走している」・・・?
森さんははあ、と溜息を吐き、薄暗い灰色の先を見据えた。

「どうもこうも言葉通りです。向こうの街はもう壊滅状態だそうですよ。 それに、途中仲間に会ったでしょう。皆結構な怪我を負っています。ここまでの状態なのに気付けないあなたの意味がわかりませんが」

――そんな馬鹿な。

「・・・・・・彼女はとても楽しそうに活動していました」

遥か遠くから地響きのようなものが聞こえた。

「本当に、あれは嘘偽りのない笑顔だったと確信できますよ」

今日はとりあえず喫茶店に召集がかかり、街をふらつく事になった。
その提案の仕方諸々考えても、特に他意は無いように見えた。
徐々に、しかし確実に「普通の高校生活」を楽しんでいっているように見えた。
洋服、雑貨、アクセサリーを見たり、甘味を食したり、ゲームセンターに行ったり。
涼宮さんは笑顔を咲かせ長門さんや朝比奈さんに勧めたり一緒に体験したりして今を満喫しているようだった。
最初は邁進していた涼宮さんを見て呆れ顔だった彼も、ゲームセンターで勝負を挑まれた時はとても楽しそうに対戦していた。
それを見て、僕もこの状況をとても微笑ましく思っていたのに。
何故だ。何故気付かなかったんだ。
何時だ?何時彼女の顔は翳っていた?
思い出せない。楽しそうな顔しか、浮かんで来ない。
ここ数日の平穏に甘えていたのがいけなかったのだ。うつつを抜かしていた僕の責任だ。僕が早く気付いていれば――


「・・・わからないからこそ、私達は闘うんですよ」


目の前の給仕係はたん、と柵の上に乗り、まだ巨人が近付いていない事を確認してから口を開いた。

「『神人を倒せば対象の心は晴れる』それが私達の絶対的真実です。
それが裏付けされている以上、私達がそれ以外に頼る理由も、リスクを冒す理由もありません。
この力は時を超えるものでも、世界を改編するものでもありません。
前者に比べると規模は小さいですが、確実に日常を取り戻せる道に一番近い力を持っているんです。
私達しか持っていない力。私達にしか出来ないこと。まずは出来る事からやってみませんか。
考えることは後でいくらでもできます。くどいようですが、『神人を倒せば対象の心は晴れる』。
まずは目の前の事に全力を尽くす事を強く推薦しますが」

彼女は微笑むと、赤い球体に姿を変えた。と、

「ああ、言い忘れていましたが、対象の心理状態は最近、不安定で天邪鬼な傾向にあるようです。これを何の情報も無しに察知するのは至難かと思われます」

言い、彼女は灰色の街に溶けて行った。

――僕だけのせいではないし、そうやって後悔をしている場合でもない、という事か――

「・・・すみません、森さん。ありがとうございます」

僕は団員の顔を脳裏に焼き付け、赤い球体となり仲間の後を追った。


(全一種)


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