単体SS

□Re:A.D.
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第三者の日々を過ごしている間に、
彼らが当事者として奮闘していた。


隠喩するならば「風に捲れる本」であろうか。
それらはパラパラと風に誘われページを下る。
そして微風になったところで動きを止め、次に風が行動を興すまでその頁を開き続ける。
――また、逆も然り。
彼らは幾度となくスタンダードな頁――SOS団部室――を離れ、風――涼宮ハルヒ――に導かれ、無数の頁――様々なイベント――へ飛ぶ。
その間わたしは只、「確立した本」を読み続けてきた。
支えていれば決して風の悪戯に誘われることはなく、
わたしはただ定められた進行に沿い頁を捲るだけ。
それは自分の意思でもあれば、時に第三者の意思でもあって。
そんなわたしのその行動には、彼らに干渉しているとおぼわしき点は一つもない、そう思い込んでいた。
・・・いや、「それ以外の発想が無かった」と言うべきなのだろうか――。


パラ、と乾いた音を立てて読み終わっていない頁が右へ捲れた。


わたしは、“感情”というものを理解できないでいる。
いくら精巧に、限りなくヒトに近い外見に造られても、その“心理”までは“つくれない”。
その本にどんなに詳細に登場人物の心情が描かれていたとしても、その「登場人物」でない限り、真理かはわからない。
作者の手中であるはずの作者自身の作品でさえもそうなのに、「わたし」はどれ程自身を把握しきれていないのだろうか。
せめて、このわたしのなかで沸き上がる、脈を打つ模倣で踊る波だけでも、把握しておきたい。
・・・そう、もうじきのエラーのためにも。
波はわたしの本を読むペースに合わせて段々大きくなっていった。
今わたしが読んでいる場面は、主人公が朋友との楽しかった思い出を懐古している場面である。
特に際立ったクライマックスのシーンではない。しかし、波は激しく音を立てて流る。
――と、わたしの目は本文ではなく周りで思い思いの時間を過ごしているひとたちを捉えていることに気付いた。
それと同時に、わたしの思考回路にストックされたわたしが見てきた過去の場面がパラパラと捲れる。
それらは全て、此処に居るひとたちと過ごした過去。
――ここで、わたしはようやくこの波が何なのか気付いた。
・・・これは、わたしの「感情」。
この場面に影響され、自分の蓄積された「思い出」を捲った、わたしの「感情」。
唯の傍観者ならば、唯の第三者であれば、この頭という本から捲れる、幾度とない似たような過去も、一度しか行っていない企画も、記憶から抜けているだろう。
唯、速やかに行動していただけなら、唯、義務的にこなしていただけなら、こんな波も、さざめかなかっただろう。
特に提案もなかった為好きな事をして過ごした放課後。繰り返した八月。野球大会。孤島。映画撮影。
わたしはこのような経験を、「当事者」として「楽しかった」と「感じて」いるのだろう――


鶴の一声が掛った。
周りのひとたちは次々に行動を止めて顔を声のした方へ向ける。
わたしも顔をそちらに向けると、読んでいた本の頁は勢い良く捲られはじめた。


2009,06,02

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