単体SS

□足元のパレット
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少しずつ、少しずつ。数えきれないほどの私が繰り返したタイムトラベルはどの時間平面上でも確かに未来への道となっている。
それが私の役目であって、第一に遂行すべき事象。
でもその行き着く未来が判り切っていて、私が本来生きる場所はそこだから、未来は拠り所となってしまっていた。
その「拠り所」に居たのだから、無意識にそれは私の正義であり、私の根拠だと思っていた。
「未来」と言う意識にとりつかれていたから、どうしてもこの「過去」というものに孤独を感じてしまっていたのだ。
交わることがないはずの先人たち。
先人に期待されて育つ私たち。
私たちの時代と大して変わらないのに、植え付けられた“同一性”に拘り区分化していた。
あちらは見えるけれど、触れられない。透明に包装された箱の中。
概念を理解しなければただの言葉である、“過去”“未来”――それが私をも消してしまうのではないかと、怖かった。


でも、時の流れに身を任せれば聞こえてくる。
駒を打つ音。
暖房の熱の音。
ページを捲る音。
話し声。
笑い声。
私を呼ぶ、近くの声。


前を見据えていたら転がる石にも気付かない。
後ろを振り返っていたらここにある大事なものにも気付かない。

過去とも未来とも言えない、私がこうやって感じている時間が“何の前例もない”時間軸である“今”で、在るべき私。

私は未来や過去という字面ばかり見ていて、物事の大きさに潰されそうだった。
何とも混ざり合える“過去”でも“未来”でもない“今”は、どんな発信源にもなるし、吸収源にもなる。
過去は今に繋がっているから。
未来は今から繋がっているから。
いま、ここの、この瞬間は何も記されず、何も予告しない、一番可能性の多い時間。一番たくさん私の縁が繋がっている場所。
この先の“未来”にだって正解は無いのだから、いっそ、一度捨て去ってゼロから積み上げればいい。

いま私が感じられているように、私もみんなと同じように。
そして、私を変えられるように。


「いま、行きますね」


“いま”は何にも縛られないから。
だから、さあ、笑おう。


2010,3,14

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