掛け算SS

□ディス-
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そこには無数の矛盾とひとつ一致した願望だけがあった。
矛盾は細胞のようにせめぎ合い、イレギュラーな安定を保っていた。
暴走しかけても互いが上手い具合に相殺し、共有する願望へと帰化した。
まるでそれ自身がひとつの生命体のように、せかいを創り上げていた。
もっとも、それが本当に意志を持った生命体だと判ったのはごく最近の事なのだが。


――間もなく独立した生命体は彼女の代わりに神の息を吐いた。


今となっては誰も矛盾について語れる者はいないが、わたしが持っていなかったものだったことは確かである。
故に台風の目の中に居れたのかもしれないが、それはあまりに無知すぎた。

この砂上の楼閣も彼ないし彼女らにとっては望むものだったのかもしれない。
これが自身の存在すべき世界の姿。
もちろん動かなかったということはわたしもそう思っていたのだろう。

総てを知る者は、もういない。


2010,6,17

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