掛け算SS

□ビューレス
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side:wise


きっと誰も知らないでしょう。
もちろん当の本人も。
それにあたしは嘆いたりしません。
だってあたしが望んだことだから。
駆け引きとしてはもう傍観者だけど、
あたしは現状で満足しているんです。
ほんの刹那のつながりを消してしまいたくないから。
多くを望んでは崩れてしまうから、
だからどんなにこころが痛くても満足なんです。
じぶんに反して育つ願望はあたしをどんどん膨らませている。
そんなこと、しりません。
だからあたしは目を閉じます。
そのあいだに起っていることは、あたしは見ていません。
あたしは、みんなと居たいんです。
古泉君が涼宮さんに芽を出しているなんて、あたしの妄想なのです。






彼女が嫌いなわけじゃない。むしろ好意を抱いている。
でもそれは絶対に超える事のない境界線の内側で微笑んでいる「好意」で、
景色を共におなじだけ保存する「行為」とは無縁なのだ。
彼女は賢明なんだと想う。たとえそれが利己的な願望の上での行動だとしてもそれがいちばん平和的で、無条件の幸福が平等に与えられる結果となるだろう。
彼女は見えているものを無視したが、僕はあえてそこに存在することにする。
ただひとりの願望で、この繋がりはおろかそれから伸びる根を張る繋がりまでも途切れるのだから、僕は目を伏せた布石と真逆の行動でバランスを取ろう。
すべてを目に入れて、すべてに通ずる知識を背負って、最後まで見届けよう。
だから僕の芽吹きも観察して、良い花を咲かせてしまおう。
――なんて、悪い冗談。
きっと僕もこの動かしようのない仲間が心地良いのだ。
だから、僕はすべてを知覚すると同時に一つだけ閉じる。
僕の願望を叶えて貰い、そして壊して貰う為に。
僕が好きな涼宮さんは彼が好きなのだ――。


2010,6,13

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