掛け算SS

□(魅了自体)逆説と快楽は如何に
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夏という季節を感じる方法が幾多あるというのは至極なる道理である。
故にその手段は千差万別で、これが正しい、これが正しくない、といった判別は、
そもそも判断すること自体が間違っているのだから、どれも正当化された導き方なのだろう。
と、俺がそう考えた所で、勘の良い奴なら俺の思惑が知れただろう。
まずこの一般論を肯定する。さすれば俺の邪念とも言える正論を裏打ちできる。
何故裏打ちできるのかと言うと、前述した通り「感じる方法は人それぞれ、故にどれも間違ったものではない」という事を自ら肯定しているから。
して、その俺の「邪念とも言える感じ方」とは何なのか。
長く論を述べた割にはくだらなく下心があるものだが、まあだからこそ野郎共には共感を得られるだろうと自信があるね。
でも矢張りそれが不当だと思っている故に正当化したいと思う俺の情けない言い訳をするならば、
「若しや俺は彼女を懸想しているのだ」


勢い良く椅子は後ろに引き摺られ二つの華奢な棒は側にある電子機器に気を使い机に伸び、叩いた。
まあよくある光景――しかしこの気温になると当社比二割増で――なので、俺は次の一手を案ずる事にした。
「あっつい!一体どうしちゃったのよ部室は!地球に対抗する必要なんてないのに!」
順序的には地球がオーバーヒートしちまったから部室もそれに準じてオーバードライブしちまってんだが、
そんな正論をハルヒにぶつけても今度はハルヒがオーバーシュートしてしまうので俺は横目に古泉の予想もつかないであろうとっておきの場所に駒を打つ。
古泉が少し目を大きくして思考に耽り始めたので、俺はその間ただ何もない空を睨んでいた。


先程述べた俺の季節の感じ方であるが、まあはっきり言うとそれは後付けの言い訳にしか過ぎないのかもしれない。
あれは、合理的に俺のこのくだらない欲望を実現させるための必要な前述や至極適当な方法であって、最早一般論が個人的なものにねじ曲がっているような気もする。
一向に定まらない俺の思考回路は次の現国の点数を匂わせる程だな、と思いつつ、
結局は人間の真理ってもんは俺と変わらないんだろう、と宇宙人からお墨付きを貰った「一般人」を誇らしく小さく掲げた。


やがてパチパチとキーを打つ音が聞こえてきた。勿論そこに広がっている光景に瞳を投じる者はいない。
恒例化している景色は面白みを持たない。いや、俺もそこまで彼女のように面白さを求めている訳ではないのだが。
俺はふとそのパソコンと格闘しているであろう彼女の方を見る。
春よりも少し長い、でもまだ尻尾とは言えないであろう、ポニーテール。
この期に及んでまだ脳裏には夏だとか正当化だとかいう単語が張り付いている素直になれない俺をいつ改善させようかと考えつつ、
誰にも聞こえない声で、二人で灰色の街を闊歩し終えた次の日に発した言葉と同じ台詞を吐いた。
「似合ってるぞ」
小さい声で言ったはずなのに彼女は俺の口元を捉え、少し顔を紅潮させた。


2009,06,07

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